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Vol.21  「新型コロナウイルス回復期にやるべき検査」

2021年7月16日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

(注意:より専門的な内容については“(→ )”内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

 

 現在、新型コロナウイルス感染の回復率は90%を越えているものの、再感染した例が多数あり、回復者の多くに後遺症が見られている。新型コロナウイルスは、体内に侵入後、身体の免疫機能を阻害することが、研究からわかっており、これは、コロナ感染者がコロナの免疫(抗体)を、必ず持っている訳ではないことを示している。


 そこで医者や科学者は、回復者もワクチン接種を打つよう勧め、後遺症や、再感染時の重症化を防ぐには、次項の経過観察が必要と述べている。

①「IgG抗体」検査
  IgG抗体とは、感染やワクチン摂取の直後に作られる免疫系のタンパク質。回復後の数か月以内にIgG抗体が、再感染を防げるレベル

 まで発生していない場合は、ワクチン接種をして免疫力を高める必要がある。

 

②「全血球算定(CBC)」検査
  新型コロナ感染が重症化すると、身体の循環機能が著しく弱る。そのため、循環器系の状態を表す血液細胞「赤血球」、「白血

 球」、「血小板」の検査をすれば、継続治療が必要かが分かる。

 

③「血糖、コレステロール」検査
  新型コロナウイルスは、血中のグルコース(血糖)濃度に影響を及ぼし、血圧の変動を引き落とすことがある。糖尿病1型・2型の

 人、コレステロール値が高い人、心臓に疾患を持つ人は、血栓症や心臓病などになる可能性があるため、慎重な経過観察が必要。

 

④「ビタミンD」検査
  ビタミンDは、免疫機能に重要な栄養素と証明されている。コロナの回復には、この補給が必要とされる。

 

⑤「神経機能」検査
  多くの感染者が回復後の数週間、もしくは数ヶ月の中で、神経的、心理的な不調を訴えている。その症状は、頭がぼーっとするなど

 の思考力の低下、不安、震え、めまい等で、こうした異変を感じたら、早期の検査が求められる。

 

⑥「胸部スキャン」検査
  新型コロナの発症時は、肺炎を伴うケースが多い。肺炎のレベルが分かる胸部スキャンは、経過観察で最も重要な検査である。

 

⑦「心臓」検査
  新型コロナ感染では、呼吸器・循環器の炎症が起きるケースが多く、中でも心筋炎が大半を占める。胸痛や不整脈などがあった場合

 は、ただちに心臓検査をすべきである。
 

 引用文献:​

  1. CDC: Evaluating and Caring for Patients with Post-COVID Conditions: Interim Guidance https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/hcp/clinical-care/post-covid-assessment-testing.html 

  2. The pathology specialist: Recovered from COVID? Post COVID care and health tests you must take. Jun 01, 2021. Metropolis Healthcare

  3. Post COVID-19 Care: Tests You Must Take After Recovering from Coronavirus. May 13, 2021. News 18.

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Vol.22  「新型コロナウイルス感染に対する新エース
「短鎖脂肪酸」」

2021年7月30日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

(注意:より専門的な内容については“(→ )”内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

 

 福井大学の研究者らは、「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」が、新型コロナウイルスの感染予防と死亡率低下に、有効的だと発表した。

新型コロナウイルスは、細胞の表面にあるタンパク質「アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)」と結合することで、細胞内に侵入する。人の臓器では、ACE2は鼻粘膜に最も存在するため、新型コロナは鼻からの感染が多いと言われている。

 過去の研究から、鼻の炎症(鼻副鼻腔炎)を持つ感染者は、ACE2が少なく、コロナに感染しても、入院する可能性が低いとわかっている。また、腸内細菌によって作られる酸の一種「短鎖脂肪酸(SCFA)」が、新型コロナ感染予防に有効的だという報告もある。

 高林哲司博士を初めとする福井大学の科学者らは、これらを立証する研究を進めた。

 まず、スギ花粉や蓄のう症(慢性副鼻腔炎)によるアレルギー性鼻炎患者を調べ、鼻炎持ちだと、新型コロナに感染しにくい可能性があると示した。

 さらに「短鎖脂肪酸」が、新型コロナの治療に活用できると証明。ACE2を持つ鼻上皮細胞の培養液に、短鎖脂肪酸と「dsRNA」(新型コロナウイルス内に存在し、ACE2を増強させる物質)を入れたところ、短鎖脂肪酸はdsRNA 存在下でも、ACE2の量を抑えた。

 この結果から、短鎖脂肪酸がACE2の量を低下させる強い作用を持ち、細胞内に新型コロナウイルスが侵入するのを防ぐ力を持つと示している。つまり、感染予防と重症化予防に有効的という事である。

 これらの報告は、米国の総合学術雑誌「American Journal of Rhinology & Allergy」に掲載され、世界中に報告された。

 引用文献:​

  1. “Short Chain Fatty Acids: An “ACE in the Hole” Against SARS-CoV-2 Infection” News from University of Fukui

  2. Tetsuji Takabayashi et al. Jun 7, 2021. “Regulation of the Expression of SARS-CoV-2 Receptor Angiotensin-Converting Enzyme 2 in Nasal Mucosa” American Journal of Rhinology & Allergy

  3. Lívia Bitencourt Pascoal et al. Feb 28, 2021. “Microbiota-derived short-chain fatty acids do not interfere with SARS-CoV-2 infection of human colonic samples” Gut Microbes

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Vol.23  「新臨床試験、純国産ワクチン実用化を後押し。
鼻腔内投与ワクチンも」

2021年8月20日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 現在、国内で接種されている新型コロナウイルスのワクチンは、すべて海外開発品で、「純国産ワクチン」が、未だ普及していない。しかし、政府がワクチンの臨床試験(治験)の条件を緩和したことから、国内製薬メーカー4社が開発を進めているワクチン(5種類)の実用化が、一気に近づいた。


 これまで、新型コロナワクチンの臨床試験は「プラセボ対照試験」が原則だった。これは被験者を2グループに分け、開発した実薬と偽薬(プラセボ)を、それぞれに投与する方法。実験者も被験者もどちらが実薬なのかを知らないため、先入観に惑わされず、正しい効果を検証できる。しかし、新型コロナのワクチン接種者が増えていることから、未接種者を確保するのが困難になっていた。


 そこで、日本と英国の医療品規制当局(PMDA、MHRA)は、6月に開かれた国際医薬品医療機器総合機構 (ICMRA)主催のオンラインセミナーで、新しい臨床試験方法を提案。被験者全員に実薬を投与する「実対照薬試験」の一種で、既存の治療薬(ワクチン)より劣っているか、いないかだけを見る「非劣勢」試験を勧めた。


 この提案から、製薬大手の第一三共(東京都)は、開発中のワクチン「mRNA新型コロナワクチン」の最終臨床試験に、新試験方法を用いると発表。既に効果が証明されているファイザー社、モデルナ社のワクチンと同等の効果か、それ以上かを検証する。詳細は非公開だが、感染を防ぐ作用を持つ「中和抗体」をはじめ、新型コロナウイルスに対抗する抗体の総量が、どれほど増えるかを比較することで、効果を判断すると思われる。

 

 ちなみに、この「mRNA新型コロナワクチン」は、人の細胞内でウイルスの一部(タンパク質)を生成して抗体を作るタイプのワクチン。このタイプが国内生産されるのは初で、これまでの試験では優れた安全性と有効性を示している。最終臨床試験の結果に期待したい。
 

 同じく製薬大手の塩野義製薬(大阪府)は、開発中のリコンビナントプロテインワクチン「S-268019」の最終臨床試験を、東南アジア等で大規模に実施する予定。

 

 さらに同社は、東京大学のベンチャー企業(HanaVax社)の特殊技術を用いて、鼻から投与するワクチンの開発を進めている。鼻腔内投与は、注射が要らず、血中に抗体を作りながら、ウイルスが付着する呼吸器系の粘膜に抗体を作るため、従来より感染予防に効果があるだろうと言われている。

 

 各社のワクチンが実用化され、ワクチンの種類が増えれば変異株に適応する可能性が増える。また、純国産ワクチンが増えれば、国内のワクチン供給が安定するため、国内の感染予防がさらに進む。各社の開発に期待したい。
 

 引用文献:​

  1. Jul 19, 2021 “Global regulators promote platform trials to assess new COVID vaccines” Regulatory Affairs Professionals Society

  2. Jun 24, 2021. “ICMRA COVID-19 Vaccine development: Future steps Workshop” ICMRA

  3. KENYA AKAMA et al., Jun 13, 2021. “Japan nears homegrown vaccine with Daiichi Sankyo Phase 3 trials” Nikkei Asia

アンカー 4

Vol.24  「新しい医療形態「バーチャルケア」の浸透」

2021年8月27日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 新型コロナウイルス感染症の世界的大流行(パンデミック)の中、感染リスクを最小限に抑え、必要なケアができる「遠隔医療」のサービス体制が、米国で確立しつつある。


 「遠隔医療」とは、患者と接見せず、リモートで問診や診断をしたり、近くの医療機関の受診を勧めたりすること。パソコンやスマートフォンを使った予約や診察は、利便性が高く有効だと評価され、米国の遠隔医療利用者は、2019年には全患者数の11%程度だったが、2021年には46%まで上昇。患者の半数近くが、遠隔医療を利用している。


 アンケート調査によると、遠隔医療利用者の90%は「満足している」、80%が「医療問題が解決した」と回答。米国の非営利医療振興団体 Fair Healthの統計によると、新型コロナ感染の症例数が減少し、対面診療に戻る患者が増えているものの、遠隔医療の数は大きく減っていない。それどころか、医療保険全体に占める遠隔医療の割合は、4―4月は2%増えている。

 この遠隔医療の利用が広がる中で登場した言葉が、「バーチャルケア(通称VPC=virtual primary care)」。リモート通信を用いた医療サービスや、これに関わるコミュニケーション全般を指し、遠隔医療よりもサービスが限定されない。そのため、医療サービスのIT化を進める医療機関は、遠隔医療ではなく、「バーチャルケア」と表記するケースが多い。


 新しい医療形態となりつつあるバーチャルケアを持続させるためには、健康保険制度(fee-for-service)の問題をクリアする必要がある。同制度の適用範囲が、バーチャルケアにおいては、かなり限定されているため、通院よりも患者が支払う医療費が増える場合がある。


 そのためバーチャルケアは、制度が適用される病気後の治療ではなく、大病を未然に防ぎ、医療費抑制につながる「予防医療サービス」分野に注力する動きがある。


 しかし注目すべきは、バーチャルケアは、収益モデルに関係なく、医療システム全体のコストを減らす可能性が高いということだ。初期段階は、機器操作や新たなシステムの対応に追われ、対面診療よりも作業負担が大きいかもしれない。しかし、回数を重ねて慣れてしまえば、対面よりも医療スタッフの作業効率が高くなるため、全体的なコストが減る。


 新型コロナの世界的感染が収まったら、対面ケアに戻りたいと思う患者もいるかもしれない。しかし、バーチャルケアは、もはやオプションではなく、新しい医療形態として確立しつつある。将来的には、患者と医療機関双方にメリットになる医療形態になるだろう。

 引用文献:​

  1. Spencer D. Dorn, 2021 “Backslide or forward progress? Virtual care at U.S. healthcare systems beyond the COVID-19 pandemic” npj digital medicine

  2.  “Using Telehealth to Expand Access to Essential Health Services during the COVID-19 Pandemic” CDC Guideline

  3. Rebecca Pifer, March 17 2021, “Amazon Care goes nationwide with telehealth, courts outside employers” Healthcaredive

  4. Susan Kelly, August 11 2021, “CVS Health's Aetna unveils nationwide primary care telehealth service” Healthcaredive

  5. Bill Siwicki, May 24 2021, “Will virtual primary care become a new model of healthcare delivery?” HIMSS

アンカー 5

Vol.25  「「細胞治療」新型コロナウイルス感染症の治療へ」

2021年9月10日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 8月11日刊行された科学雑誌「Science Advances」で、米国生物学者ジョージ・チャーチ氏をはじめとする多くの科学者が、新型コロナウイルス感染症の重症化、後遺症の治療に有効とされる「細胞治療」の可能性を示した。

 細胞治療とは、損傷した細胞を修復させる機能を持つ細胞を、健康体から採取して培養し、患者に投与すること。臨床試験は初期段階ではあるが、続々と成果が報告されている。

 

そもそも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は出現当初、ウイルス性肺炎のみを引き起こす病原体だと思われていた。しかし研究が進むにつれ、ウイルスは全身に広がり、免疫システムや腎臓、心臓、神経系の機能を阻害することが分かった。

 これは、身体の細胞の表面にあるタンパク質「アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)」が関係している。新型コロナウイルスは、このACE2と結合することで細胞内に侵入するが、ACE2は鼻粘膜を始め、肺、心臓、腎臓、膀胱、腸にも存在する。なので、それらの臓器でもウイルスが増殖し、心血管、神経、免疫、消化器系などの機能が損傷する。

 そのため、大半が軽症で済むものの、感染者の15%強は重篤な症状で長期入院に至り、重症患者の死亡率は61・5%に達する。回復しても、ウイルスによる臓器の損傷が原因で、長期的な後遺症が残る場合もある。

 

 現在主流となっている治療法は、身体に表れている症状の抑制に留まるため、症状を根本から治し、後遺症の残らない治療法が求められている。そこで注目されているのが、組織を再生・構築する「細胞治療」だ。

 細胞治療に使用されるのは、様々な組織に変化する「幹細胞」である。研究から、骨や軟骨、血管、心筋細胞に変化する中胚葉由来の「間葉系幹細胞 (MSC)」や、肺胞を軟化させる(膨らませる)物質を分泌する「Ⅱ型肺胞上皮細胞」は、コロナ感染の後遺症で多い、「肺線維症※」の治療に有効と、動物実験から示された。

 ※酸素や二酸化炭素の通り道である肺胞の壁(間質)が厚く、硬くなり(繊維化)、肺が十分にふくらまず、酸素が不足になる症状。

 

 ナチュラルキラー(NK)細胞、調節性T細胞(Treg)、ウイルス特異的T細胞、遺伝子組換えCAR-NK細胞、CAR‐T細胞は、全身の炎症を引き起こす「サイトカインストーム」の抑制に効果があり、MSCもこの抑制に有効と見られる。

 心血管系、腎系、心筋系の障害に対しては、IPS細胞から作られた心筋細胞や腎細胞、MSCを移植する治療法の臨床試験がスタートしている。

 これらの細胞治療の有効性が確立し、実用化・普及に至れば、重症化や後遺症に苦しむ患者を救うことができる。臨床試験の動向に注視したい。

 引用文献:​

  1. Zaki et al., August 11 2021, “Cell therapy strategies for COVID-19: Current approaches and potential applications” Science Advances Vol. 7, no. 33, eabg5995. DOI: 10.1126/sciadv.abg5995

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Vol.26  「デルタ株のブレークスルー感染にご用心。
感染予防の継続を」

2021年9月24日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 新型コロナウイルスのワクチン接種が広がり、重症化や死亡数が減少する中、ワクチン接種後にも関わらずコロナに感染する「ブレークスルー感染」の症例が、多数報告されている。

 

 ブレークスルー感染とは、季節性インフルエンザのように、繰り返しかかる可能性がある感染症にみられる現象。ワクチン打っていても、ワクチンが対象としている病気にかかることを指す。
 

 新型コロナのブレークスルー感染において、最も危惧されているのが、感染力の高い変異ウイルス「デルタ株」※だ。
※驚異的な感染力でインドから世界中に広まり、2021年5月に世界保健機関(WHO)の「注視すべき変異」に位置付けられた変異株。

 

 まず7月に、英国の科学雑誌「ネイチャー」に掲載されたフランス研究者の論文が、「デルタ株には、抗体医薬品が(従来の新型コロナウイルスに対してほど)効果を発揮しない」と発表した。
 

 例えば、米国のメジャーな抗体医薬品「bamlanivimab(バムラニビマブ)」は、新型コロナウイルスの表面にある突起部分「スパイクタンパク質」と結合して、ウイルスの動きを封じ込める。しかし、スパイクタンパク質が一部変形しているデルタ株には、うまく結合できず、効果が弱まるという。

 

 ワクチンや獲得免疫※も、デルタ株には効果が薄い。(※同じ病気にかからない免疫が体内にできること)
 

 コロナ感染回復者が持つ抗体(獲得免疫)の効果を調べたところ、デルタ株に対する効果の度合いは、過去に猛威をふるった英国の変異株「アルファ株」への効果と比べ、4分の1程度だった。
 

 また、ワクチン1回の接種では、デルタ株の侵入をほぼ防げないことも明らかになった。たとえワクチンを2回接種しても、(95%に防御効果が見られたものの)効果の強さは、アルファ株に対する防御効果の3分の1以下だった。
 

 このように抗体医薬品やワクチンをくぐり抜け、強い感染力を持つデルタ株だが、ブレークスルー感染であれば、重症化や死亡に至りにくい。

 

 ネイチャーに掲載されたイスラエルの研究が、ブレークスルー感染は軽症にとどまることや、ブレークスルー感染にかかる確率は、ウイルスの感染能力を消す「中和抗体」が関係していることを示している。
 

 その研究によると、同国最大の医療センターで働く医療従事者(1万2586人)の9割が、ワクチンの2回接種を終えていたものの、39人にブレークスルー感染が見られ、大半が軽症または無症状だった。中和抗体の量が少ない人は、ブレークスルー感染になりやすく、多い人はなりにくいことも、検証から明らかになった。
 

 「ワクチン接種者は軽症にとどまる」からといって、安心はできない。

 

 8月のネイチャー掲載された研究では、デルタ株に感染したワクチン接種者、未接種者いずれからも、同量のウイルスが検出された。
 

 つまり、症状の軽かろうが、ワクチン未接種者と同じぐらい感染を広げる力があるということだ。
 

 上記の研究結果から、ワクチンを接種済みでも感染防止措置は続ける必要があるとわかる。マスク着用とソーシャルディスタンスの確保などを継続し、さらなる免疫強化のため、ワクチン3回目接種も必須だ。そして、デルタ株に対応するワクチン開発も急務である。
 

 引用文献:​

  1. Petra Mlcochova et al., Sep 6 2021, “SARS-CoV-2 B.1.617.2 Delta variant replication and immune evasion” Nature.

  2. Nidhi Subbaraman, Aug 12 2021, “How do vaccinated people spread Delta? What the science says” Nature.

  3. Delphine Planas et al., Jul 18 2021 “Reduced sensitivity of SARS-CoV-2 variant Delta to antibody neutralization” Nature.

  4. Moriah Bergwerk et al., Jul 28 2021, “Covid-19 Breakthrough Infections in Vaccinated Health Care Workers” N Engl J Med.

アンカー 7

Vol.27  「新型コロナはいずれ風邪化する?」

2021年10月8日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

―ワクチンが死亡や重症化を防ぐー

 変異ウイルスのデルタ株が驚異的な感染力で猛威を振るう一方、新型コロナによる死亡・重症化は、ワクチン接種の普及によって減少傾向にある。


 ワクチン接種済みの約450万人を対象にした英国の研究から、接種者は感染率が低いだけでなく、たとえ感染しても症状が軽く、完治までの期間も短いことがわかった。


 この研究結果は、9月1日発行の学術雑誌「Journal of Lancet Infectious Diseases」に掲載され、「ワクチンは、重症化や後遺症を防ぎ、ブレークスルー感染※にかかる確率を下げる」と、世界中に発信した。

※ワクチンを打っていても、ワクチンが対象としている病気にかかること。


―新型コロナは風邪化するー

 「新型コロナウイルスは、いずれ普通の風邪と同じくらい、ありふれたウイルスになる」。


 オックスフォード大学のジェンナー研究所で、ワクチン開発チームを率いるサラ・ギルバート教授が、英国王立医学協会主催のウェブセミナーでそう発表した。


 新興感染症(新たに出現した感染症の総称)のウイルスは、出現当初は重症化や死亡を引き起こす能力を持つが、次第に弱体化して、治療可能なウイルスになることから、「新型コロナもそうなるだろう」と予測。

 

 ハーバード大学公衆衛生学院の専門家も、1918~20年に世界的大流行(パンデミック)となったスペイン風邪が、冬場によく流行するインフルエンザウイルスの一種に変わった経緯を紹介し、「新型コロナも、予防治癒可能なウイルスになる」と予想した。

 

 この専門家はさらに、発生初期は高かった死亡率が、(スペイン風邪のウイルスがまだ蔓延している)パンデミック後期に低下した例から、獲得免疫やワクチンの効果も強調。

 「感染拡大で人々が獲得した免疫が、再感染と重症化を防いだ。新型コロナのワクチン接種も、この獲得免疫と同じ効果がある」と述べた。


―風邪化となるのはいつ?ー
 
 ウイルスが弱体化する予測の下、「新型コロナの“風邪化”を後押しするのは、ワクチン開発の促進と治療方法の確立だ」とギルバート教授は語る。


 予防と共に重症化を防ぐ「ワクチン」と、効果的な治療になる「医薬品」が整えば、人が管理できる病気になり、風邪化が実現するという。


 しかし、いつ風邪化するは予測しにくい。ワクチンや医薬品以外に、「ウイルスの感染力」や「ワクチンや自然感染で得る免疫の強さ」、「感染しやすい環境」、「感染予防対策」など、コントロールが難しい複数の要因も絡むため、時期が見通せないのだ。


―新型コロナを健康増進の契機に―

 上記の研究から、新型コロナはいずれ風邪化し、予防と治療が可能な「日常にありふれた病気」になることが分かる。
 

 大切なのは、安堵にとどまらず、新型コロナの教訓を未来に生かすことだ。私たちが当たり前にしている手洗いやうがいなどの感染予防、衛生環境の改善は、過去に発生した感染症のパンデミックによって定着した。

 

 新型コロナがもたらした様々な課題の解決が、将来起こりうる他の感染症の感染拡大を防ぐのに、役立つだろう。今まさに、社会システムの在り方を見直し、人々の健康増進を図る好機である。
 
 

 引用文献:​

  1. Michela Antonelli et al., Sep 1 2021, “Risk factors and disease profile of post-vaccination SARS-CoV-2 infection in UK users of the COVID Symptom Study app: a prospective, community-based, nested, case-control study” Lancet Infectious Disease.

  2. ELEANOR HAYWARD, Sep 22 2021, ”Covid is going to just become a cold': Vaccine pioneer says virus will get weaker all the time as Whitty says every child is going to get it, unless they are jabbed” THE DAILY MAIL

  3. Karen Feldscher, Aug 11 2021 “What will it be like when COVID-19 becomes endemic?” Featured News Stories from Harvard T.H. Chan School of Public Health.

アンカー 8

Vol.28  「いまだ熱いコロナ検査市場。米国で広がる
「核酸検査の家庭用検査キット」

2021年10月22日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

ー需要伸びる検査市場。成功を収めた検査キット会社ー

 

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が、ワクチンの普及により収束しつつあるものの、コロナ検査関連市場の需要は続いている。

 米国政府は10月6日、家庭用検査キット生産に数十億ドルを投じ、誰もが手軽に感染の有無を調べられる社会体制を作る考えを示した。

 コロナ検査関連市場が魅力的な市場と見られる中、9月に検査キット開発の「キュー・ヘルス(Cue Health、以下キュー社)」が、米ナスダック市場に新規上場(IPO)した。初値は、公開価格(16ドル)を25%上回る20ドルで、企業評価額は23億ドル(約2600億円)近くに達した。

 

―キュー社成功の背景―

 

 同社は2010年設立後、家庭用インフルエンザ検査キットを開発していた。19年に新型コロナが発生したことから、いち早く新型コロナを対象とした家庭用検査キットの開発に着手。

開発した製品は、2020年6月にFDA(アメリカ食品医薬品局)の許可を得て、臨床現場即時検査(POCT)として医療現場で使用されるようになり、21年3月には自宅での使用も可能になった。

キュー社の製品は、他社とは異なる3つの強みがある。

「米国初の核酸検査ができる家庭用検査キット」

市場に流通している家庭用検査キットには、ウイルス特有のタンパク質の検出から、感染の有無を判別する「抗原検査」が用いられている。抗原検査は、一定のウイルス量が必要であるため、ウイルスが少量の場合は判定が難しいと言われている。

それに対し、キュー社のキットは、PCR検査と同じ「核酸検査」の一種である「NAAT法」を採用している。核酸検査とは、ウイルスの遺伝子を増幅させて調べる手法で、少量のウイルスにも対応するため、PCR検査と同程度の精度になる。

米国医療機関の調べによると、キュー社製キットと、医療機関でのPCR検査の結果を比較したところ、92%の高確率でマッチしたという。

「病院に行かずに、ドラッグストアで購入できる」

PCR検査に代表される核酸検査は今まで、医療機関にある専用機器と検査技術が必要だった。しかし、キュー社製の家庭用検査キットは、特別な技術がいらず、誰でも使える仕様で、ドラッグストアで手軽に買える。

「検査時間は20分、スマートフォンで確認可能」

医療機関で行う核酸検査にかかる時間は、前処理含め3時間ほどだった。それに対し、NAAT法を用いたキュー社の検査機器は、結果の判定まで20分で、スマートフォンアプリですぐに結果を見られる。

 

 ―キュー社の今後。変異株感染エリア予測などー

 

 10月からは、IT大手「グーグル(Google)」と組み、クラウド上に上がった検査結果から、変異株感染者の位置情報を抽出し、どこにどの種類の変異株が感染しているかを把握する。その結果を、遺伝子配列やAI(人工知能)で解析し、次の感染エリアを予測できるようにする。

 さらに、キュー社は家庭用検査キットの対象を広げる。インフルエルザ、風邪ウイルスの一つ「RSウイルス」、排卵日の検査の他、心臓病や慢性疾患の可能性をチェックできる製品を、22年に発売する予定。鼻腔拭いだけでなく、血液や尿からも検査できるようにする。

 

 精度の高い「核酸検査」を使った家庭用検査キット。残念ながら、日本ではまだ流通していない。キュー社の活躍が、日本の家庭用検査市場に好影響をもたらすことを期待したい。

 引用文献:​

  1. Andrea Park, Oct 7 2021, “White House funnels $1B into at-home COVID test makers, quadrupling monthly supply by December” Fierce Biotech

  2. Katie Jennings, Sep 24 2021,” Covid Test Maker Cue Health Goes Public At $2.3 Billion Valuation as Demand Surges” Forbes

  3. TYLER CHEN, Sep 27 2021, “Why can Cue Health IPO oversubscribe? Market value exceeds 2 billion U.S. dollars” Geneonline.news.

  4. Conor Hale, Oct 7 2021, “Cue Health taps Google Cloud to track down COVID variants and connect its portable tests” Fierce Biotech

アンカー 9

Vol.29  「新型コロナ飲み薬、パンデミック収束のゲーム
チェンジャーに」

2021年11月12日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 米国の製薬大手メルクが開発した新型コロナウイルス経口治療薬「モルヌピラビル」が4日、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)に承認された。新型コロナ向け飲み薬の承認は、世界初。米国、欧州連合(EU)の当局も承認審査に入っており、日本でも近く承認される見通しだ。


―モルヌピラビルとはー

 これまで新型コロナの治療は、注射か点滴で抗ウイルス薬を投与する方法しかなく、病院でしか受けられなかった。また病院で使用されている抗ウイルス薬は、重症化するほど効果が薄くなるのが課題だった。
 メルクの飲み薬は、もともとインフルエンザ用に開発された治療薬で、発症初期の患者の重症化を防ぐ効果がある。
 発症から5日間、1日2回服用するが、処方箋があれば、薬局やドラッグストアで買えるため、何度も病院に行かずに済み、早期治療が容易になる。


―有効性は―

 メルクの飲み薬は、ウイルスの複製に必要な酵素「RNAポリメラーゼ」の働きを阻害する低分子化合物でできており、ウイルスの遺伝子の増殖を抑制し、病気の悪化を防ぐ。
 新型コロナの治療薬として特例承認された抗ウイルス薬「レムデシビル」と同様の作用だが、モルヌピラビルの方がより強力と言われる。ガンマやデルタ、ミュー等の変異株にも有効だ。

 軽症や中等症の患者を対象にした国際共同臨床試験(治験)では、入院や死亡のリスクを50%も減らした。投与患者の死亡はゼロだった。

 治療薬による有害事象(副作用や症状の悪化)は、モルヌピラビル(メルクの飲み薬)群12%、プラセボ(偽薬)群11%と、ほぼ同じだった。

 治療を中止するほどの有害事象を起こしたのは、モルヌピラビル群1.3%、プラセボ群3.4%と、メルクの飲み薬は確率が低かった。


―副作用はー
  
 遺伝子にアプローチする薬のため、一部の研究者は、同剤が遺伝的障害(DNAに異常)を起こす危険性があると指摘する。そのため治験では、妊娠を望む男女、妊娠中もしくは授乳中の女性は、対象から外された。
 遺伝子に影響する可能性について、メルクは「用法用量を守れば安全」と述べている。


―ゲームチェンジャーになるか―

 

 新型コロナウイルスとの「共存」には、風邪の病原体と同程度の対策が必要だ。感染拡大と重症化を防ぐ「ワクチン」と、早期治療を促す「経口治療薬」が、パンデミック(世界的大流行)収束のゲームチェンジャーだと言われている。
 特に、ワクチンの管理設備がなく、医療スタッフも少ない発展途上国では、経口治療薬が鍵を握る。


―日本の製薬会社に期待ー
 
 国内の製薬大手、塩野義製薬(大阪府)が開発中の飲み薬「S―217622」は、ウイルスの酵素「3CLプロテアーゼ」の働きを阻害し、ウイルスの増殖を防ぐ。症状がない、もしくは軽症の患者2千人を対象に最終段階の治験を進めており、年度内の供給開始を目指す。
 遺伝子への影響はないと考えられるため、同剤の有効性に期待が高まる。


ー油断大敵。感染予防の継続をー

 治療薬が増えているからといって、油断は禁物だ。治療薬やワクチンは、感染予防効果や軽症の確率を高めるもので、感染予防や重症化を100%保障する訳ではない。
 感染で引き起こるリスクを考えると、感染しないのが一番。日頃の予防対策は、今後も継続させましょう。

 引用文献:​

  1. Cassandra Willyard, Oct 8, 2021, “How antiviral pill molnupiravir shot ahead in the COVID drug hunt” Nature news.

  2. Oct 11, 2021” Merck and Ridgeback Announce Submission of Emergency Use Authorization Application to the U.S. FDA for Molnupiravir, an Investigational Oral Antiviral Medicine, for the Treatment of Mild-to-Moderate COVID-19 in At Risk Adults” Merck News Releases.

  3. OSAMU TSUKIMORI, Oct 20, 2021 “Oral drug molnupiravir seen as 'trump card' in Japan's battle against COVID-19” The Japan times

  4. Umair Irfan. Oct 12, 2021, “Why Merck’s Covid-19 pill molnupiravir could be so important” Vox News.

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Vol.30  「小児向けコロナワクチンの安全性」

2021年11月26日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 新型コロナワクチンの小児への接種が、米国で始まった。5~11歳を対象としたファイザー製ワクチンが、10月に食品医薬品局(FDA)に承認されたからだ。

 

 日本では、ワクチン接種対象年齢が、2月に16歳以上、5月に12歳以上と広がっている。

 

 5~11歳も接種できるよう、ファイザー社日本法人は11月10日に厚労省に承認を申請。承認されれば、成人の投与量の3分の1にあたる10マイクログラム※を、3週間空けて2回接種することになる。
(※マイクログラムは、1gの100万分の1)


―心筋炎が争点に―

 米国では、小児向けワクチン接種の承認にあたり、感染で重症化しやすい(肥満や糖尿病などの)基礎疾患を持つ小児だけでなく、健康な小児も受けるべきかが、論点となった。
 ファイザー社製含め、メッセンジャーRNA(mRNA)という遺伝物質を使ったワクチンによって、心筋炎(心筋の炎症)や心膜炎(心臓の周囲を覆う膜の炎症)が起こるケースがあり、その大半が20代以下の男性だったからだ。
 健康な小児が、心筋炎を起こす可能性が危惧されていた。


―有効性の実証ー
  
 FDAによると、人が心筋炎になる確率は、コロナ感染によって16倍も高まる。さらに、コロナ感染を原因とした(発熱や臓器損傷などが起きる)臓器炎症症候群(MIS-C)の発症は、5~13歳で非常に多い。
 しかし、5~11歳の約4650人を対象にした臨床試験(治験)では、心筋炎や心膜炎の症状は、1件もなかった。
 そのため、ワクチンで心筋炎になるより、ワクチンを打たず感染して重症化する方が、圧倒的にリスクが高いと判断され、全ての小児がワクチン接種をすべきと結論づけられた。


―続く感染拡大。ワクチンの効能とは―

 

 新型コロナによる若年層の死亡数は、高齢者ほど多くない。しかし米国では、変異株の蔓延と対面授業の再開が重なり、7月下旬から小児の感染者が急増している。
 パンデミック後、小児の感染者は630万人に上り、11月1日時点で、コロナによる全世界の死亡者数は500万人になった。
 子供、大人問わず感染が広がり続ける中で、安全性が保障された小児向けワクチン。日本での承認は2月頃と言われている。
 当社のコラムを含め、さまざまな文献や論文などから、小児向けワクチンの機能や効果に、理解を深めてほしい。

 引用文献:​

  1. Max Kozlov, Oct 27, 2021,“What COVID vaccines for young kids could mean for the pandemic” Nature news

  2. Leah Campbell, Oct 29, 2021, “Everything Parents Need To Know About The Covid-19 Vaccine Trial Results For Kids” Forbes.

  3. Alice Park, Oct 30, 2021, “FDA Authorizes COVID-19 Vaccine for Children 5-11 Years Old” TIME

  4. Samantha Beech, Jake Kwon and Helen Regan. Nov 1, 2021, “Global Covid-19 deaths surpass five million” CNN News.

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