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 Vol.1  「新型コロナの検査のいろいろ」

2021年1月15日 更新 Cellspect Co., Ltd

 現在、さまざまな新型コロナの検査が行われています。検査には大きく分けて、ウイルス検査と抗体検査の2種類があります。ウイルス検査は、PCR検査や抗原検査などがあり、このウイルスに現在感染しているかどうかを調べることができます。抗体検査は、過去にこのウイルスに感染したことがあるかどうかを調べることができる検査です。 それでは、もう少し、詳しく理解を深めていきましょう。

 

<ウイルス検査>

PCR検査

 新型コロナウイルスは“RNA”という物質(設計図)を持っています。このRNAはウイルスの種類によって異なり、そのウイルス固有のものです。PCR検査とは、このRNAを調べるための検査方法です。唾液や咽頭ぬぐい液のような体液中に新型コロナウイルスのRNAが見つかると、そのウイルスが見つかったということになり、「PCR陽性」という診断になります。  

 この検査はウイルス固有のRNAを見つける方法なので、非常に正確であると言えます。しかし、検査するためには専門の検査技能を持っている人じゃないと簡単に測定できません。また、判定結果を得るためには数時間も必要なので、たくさんの人に提供するためには、大きな費用と、時間がかかります。

 

抗原検査

 PCR検査ではウイルスのRNAを調べるのですが、抗原検査ではウイルスのタンパク質(抗原と呼ばれる)を調べます。RNAと同じように、「抗原」もウイルスの種類によって異なり、固有のものです。抗原検査はPCR検査に比べて、感度(陽性者を見つける能力)が高くないため、偽陰性(陰性と判定されたけど実は陽性)となる場合があります。しかしながら、抗原検査の利点は、検査費用が安く(数千円)、高度な技能を持っていない人でも検査することができます。また、いくつかの迅速な抗原検査キットが開発されており、いずれも15分から30分以内に結果を得ることができます。感染のピーク状態の体内で抗原の濃度が最も高いことがわかってきました。抗原検査で結果が「陽性」であった場合は、ほぼ確実に陽性といえますが、「陰性」となった場合は偽陰性(陰性と出たけど実際は陽性)である可能性が高いことに注意が必要です。我が国のガイドラインでは抗原検査で陽性の場合は、そのまま陽性と診断できますが、陰性となった場合は、陰性であるという証明にはならない点に気をつけなければなりません。多少の漏れはあるかもしれませんが、直ちにPCR検査ができる状況にない状況において、一刻も早く陽性者を見つけ出すためには現実的で有効な検査法です。

 

抗体検査(血清学的検査)

 病気の原因となるウイルスが体内に侵入すると、これを除去するための身体の機能として、「免疫」が働きます。免疫とは、「抗体」というタンパク質をウイルスにぶつけて、ウイルスの活動を止めます。「抗体」はウイルスの種類に合わせて作られるので、新型コロナウイルスに対する抗体が体内にあるのかないのかを調べれば、過去に感染したかどうかを知ることができます。さて、抗体は発症したばかりの時はまだ十分に作られていないため、検査では見つかりません。セルスペクト研究チームと連携医療機関との研究結果によると、新型コロナウイルスの抗体は発症してから1~2週間経過して現れ始めることがわかってきました。また、CDC(米国疾病対策センター)からも類似の報告がされています。

 多くの抗体検査キットは、指先から採取した1滴の血液を用いて検査し、数分で結果が得られます。抗体検査は過去に感染したかどうか(少なくとも発症14日から3-5ヵ月の期間)、抗体反応があるか否かを知ることができるので、ワクチンで獲得した免疫の持続性を判定することに使える可能性があります。また、微量の血液で手軽に検査できるので、ウイルス検査ができない場合で、且つ感染後の経過期間を仮定できる場合においては、抗体検査を感染の評価方法として応用されるケースも報告されています。この条件の例としては、発症3日で感度0〜30%、発症7日で感度30〜60%、発症14日で感度80〜100%のように相次いで報告されています。抗体検査は、その性質を理解して使用することで、様々なシーンでの新型コロナウイルス感染症を知るための研究に活用されています。

PCR検査コラム1.jpg

*結果が偽陽性や偽陰性となる可能性があることに注意が必要

ウイルス検査が陰性であれば、サンプルを採取した時点ではおそらく感染していなかったということになります。陰性であったからと言って、今後発症しないとは言えず、単に検査時にウイルスを保有していなかったという意味でしかありません。 抗原検査での陰性は、ウイルスタンパク質が検出されなかったことを意味します。抗原検査の偽陰性率が高いため、結果陰性であった場合は、確認のためにPCR検査をするようにガイドラインにて勧奨されている。

 引用文献:​

  1. HORIZON The EU Research & Innovation Magazine: https://horizon-magazine.eu/

  2. U.S. Food and drug administration: https://www.fda.gov/

  3. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  4. Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/

  5. Texas Health and Human servicess: https://hhs.texas.gov/

  6. Kazuo.I et al, Antibody response patterns in COVID-19 patients with different levels of disease severity—Japan, preprint, doi: https://doi.org/10.1101/2020.11.20.20231696;

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 Vol.2  「新型コロナ検査の政策、諸外国では?」

2021年1月18日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

 新型コロナの感染拡大は、日本以上に、欧米世界に対して大きな脅威をもたらしています。新型コロナの検査は、ウイルス検査 (PCR、抗原検査) と過去の感染の有無を調べる抗体検査の2種類が使われています。現在、各国における新型コロナの検査に関する政策は、検査製品の供給能力、検査を実施する能力、医療体制の差異により様々です。  

 海外での検査の実態について、詳しくみてみましょう。

 

<ウイルス検査>

PCR検査

 PCR検査は、新型コロナウイルス感染診断に使われている最も標準的な方法です。

 現在、各国で公式に発表される患者数は、PCR検査により診断されたものがほとんどです。

 

米国、ドイツ、フランス、ロシア、南アフリカ、韓国、中国、台湾、マレーシアなどほとんどの国

無症状の人でも受けられる検査(例えばドライブスルー検査)が実施されています。

 

英国、カナダ、オーストラリア、フィンランド、スペイン、インド、フィリピン、タイなど

新型コロナ感染を疑われる症状を示す人に検査を実施しています。

 

日本、ブラジル、メキシコ、インドネシア、およびほとんどのアフリカ諸国など医療および検査の資源が限られている国

症状があり、かつ特定の基準(例えば、エッセンシャルワーカー、入院患者、濃厚接触者)を満たす人に検査が実施されています。

(*我が国は、保健所や医療機関において検査が必要と判断された場合に行政検査の対象となる点、疑わしい症状のある方全てが対象となっていない点で、「検査対象が限定的」と言えます。従って、「特定の基準を満たす人」と本紙では解釈致しました。)

 

④旅行者の入国時  フランス、ドイツ、オーストラリア、中国、台湾などの一部の国

すべての海外旅行者について、フライト前72時間以内に実施したPCR検査で陰性の結果であった場合のみを受け入れています。

*上記情報は本紙編集当時のものであり、高い頻度で改正、変更、施行、実態とは異なる場合があります。

 

抗原検査

 抗原検査はPCR検査ほど感度(陽性者を見つける能力)が高くなく、偽陰性(陰性と判定されてるけど実は陽性)が高くなる場合があります。しかし、PCR検査と比べて、はるかに迅速で、安価な抗原検査キットがあるため、この検査方法を受け入れる国が増えてきています。

 2020年9月11日にCOVID-19に対する迅速抗原検査に関する中間ガイダンスをWHOが発表し、一定の基準を発表しています。特にPCR検査の利用が難しい場所(空港など)で抗原検査が用いられています。

 

米国では

抗原検査がPCR検査と同等の役割を果たすようになっており、病院や公共の検査場で利用されています。

 

他の先進国では

抗原検査は主に空港で入出国管理のために使用されています。

 

日本では

原則としてすべての入国者に対し空港での新型コロナ検査を実施していますが、昨年7月末に検査方法をPCR検査から、唾液を使った抗原検査に変更しました。

 

シンガポールでは

昨年10月から、海外からの労働者の新型コロナ感染者を早期に発見するため、迅速抗原検査を導入しました

 

ほとんどの欧州諸国(英国、イタリア、ノルウェー、オーストリアなど)やニュージーランドでは

72時間以内における新型コロナウイルス検査で陰性結果を持っていない場合、空港で抗原検査が実施されます。 (アフリカからの旅行者の場合も対象)

1月26日からは、米国疾病予防管理センター(CDC)も入国するすべての旅行者に対し、搭乗前に新型コロナウイルス検査が陰性であることの証明(PCR検査または抗原検査)を提出するよう義務付けています。迅速に検査できるという利点ゆえに、ますます多くの国が、移動時および日常の検査で、抗原検査を利用しています。

 

<抗体検査>

抗体検査(血清学的検査)

 抗体検査は、過去にこの感染症にかかったことかどうかを知ることができます。しかし、現在、感染しているかについては判定ができないので、行政検査や規制のための検査のような感染症に関する法律を適用する際の検査・診断には適していません。専ら、免疫学の見識のある研究者、抗体調査を訴求している方々の様々な調査・研究目的で、広く活用されてる手法です。

 この新しいウイルスにはまだわかっていない事が多くあります。一般的にウイルス感染から回復した人は抗体を獲得すると考えられますが、再びウイルスにさらされた場合にこの抗体がいつまで持つのかについて調べる際、抗体検査が使われることがあります。近い将来、他の研究データとともにしっかり分析することで、抗体の獲得の有無を検査することにより、感染のリスクやその安全性を判断することができるようになるかもしれません。

 現時点では、抗体を獲得してからどれだけ持続するのか、また、抗体を持つことにより再感染が予防できるのかについては明瞭にわかっていません。

 引用文献:​

  1. U.S. Food and drug administration: https://www.fda.gov/

  2. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  3. Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/

  4. Our world in Data:https://ourworldindata.org/

  5. OECD Policy Responses to Coronavirus (COVID-19):http://www.oecd.org/coronavirus/en/

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 Vol.3  「新型コロナのワクチンを比べてみよう」

2021年2月3日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

 2020年、全世界は新型コロナウイルス感染症により凄まじい被害を受けました。世界中の研究者たちは、これまでにない速さで、安全かつ効果的なワクチンの開発競争に乗り出しました。そして迎えた2021年、新型コロナウイルスのワクチンは徐々に実用化され始めており、人類はようやく普通の生活に戻るための攻勢に転じています。

 

 今号は、ワクチンについてとりあげます。

 2021年2月現在、さまざまな国でワクチンの緊急使用許可がなされました。ワクチンは、病原体の一部を人為的に身体にさらし、この病原体を予め身体に学習させることで、防御機構(免疫)を獲得、以後、実際の病原体に遭遇したときには、得られた免疫が機能することで、感染や重症化を回避させます。

 

世界で投与が始まった新型コロナワクチンは大きく3つのカテゴリーに分類できます。

 

1. RNAワクチン (ファイザー/ビオンテック社製およびモデルナ社製)

2. アデノウイルスワクチン (オックスフォード - アストラゼネカ製およびガマレヤ社製)

3. 不活化コロナウイルス (シノファーム社製)

 

現在主に世界中で使用されている新型コロナワクチンを以下に比較します。

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RNAワクチン(ファイザー・ビオンテック社、モデルナ社)

 RNAワクチンにはmRNAという遺伝子物質が含まれており、体内に接種すると、細胞がmRNAの情報にそってタンパク質をつくり、これが免疫応答(異物を排除するための防御機構である“免疫”が作動すること)を起こさせます。

 RNAワクチンは比較的新しいタイプのワクチンです。これまでのワクチンと大きく異なるのは、ワクチンの材料を得やすく、且つ通常の実験室でも開発できる点です。RNAワクチンの利点は、安全性(生物自体から作られていないため、ワクチン自体がその病気を引き起こす危険性がないとされている)、信頼性、製造が比較的容易であることなどがあります。mRNAワクチンは、インフルエンザ、ジカ熱、狂犬病などについてこれまでに研究されています。しかし、mRNAは非常に壊れやすく、取り扱いを誤ると分解してしまうため、RNAワクチンの保存や長距離輸送は大きな課題となります。また、このタイプのワクチンが、これまで、人体で使うことを認可されたことがないことは事実です。期待と不安の両方の観点での議論が沸き起こっています。

 

アデノウイルスベクターワクチン(オックスフォード・アウトラゼネカ社)

 このワクチンは、新型コロナウイルスのタンパク質の設計図となるDNAを、ヒトに対して病原性の少ないアデノウイルベクター(運び手)に組み込み、これを投与することで、ヒトの細胞の中に侵入させ、この細胞の中で新型コロナウイルスの抗原タンパク質を合成させます。 合成された抗原に対して、人体は免疫を獲得する仕組みです。

 アデノウイルスベクターワクチンは、前述のmRNAワクチンが臨床試験される前に開発された技術です。アデノウイルスワクチンの最大の利点は、何十年もかけて育成、研究されてきた点にあります(エボラウイルスワクチンでの経験がある)。さらに、アデノウイルスワクチンの保管は、RNAワクチンよりもはるかに容易です。一方、過去にウイルスベクターに曝露したことがある場合、有効性が低下する懸念があることは特筆すべき点です。

 

不活化ウイルスワクチン(ガマレヤ社 Sputnik V)

 不活化ウイルスワクチンは、人工的に培養したウイルス粒子を、熱やホルムアルデヒドなどの方法で殺して、病気を発生させる能力をなくしたものです。これを投与し、免疫反応を刺激させます。不活化ウイルスワクチンの利点には、その技術が十分に確立されていること、免疫不全(免疫機能が低下している状態)の人にも適していること、製造が比較的容易であることなどがあります。(不活化ワクチンの例:ジフテリア・百日せき・破傷風・不活化ポリオワクチン四種混合ワクチン(DPT-IPV)、ジフテリア・百日せき・破傷風三種混合ワクチン(DPT)、ジフテリア・破傷風二種混合ワクチン(DT)、日本脳炎ワクチン、インフルエンザHAワクチン、ヒブワクチン(インフルエンザ桿菌b型ワクチン)、小児用13価肺炎球菌ワクチン、子宮頸がんワクチン、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン、不活化ポリオワクチン)

 

ワクチンに対する世界の見解

 米国食品医薬品局 (FDA) および欧州医薬品庁 (EMA) は、新型コロナワクチン承認に必要な有効性を50%以上と設定しています。現在、ほとんどの新型コロナワクチンはWHOの基準よりも高い効果を示しています。また、有効性以外に、安全性は最優先事項です。開発メーカーにより、注射部位の痛み、発熱、筋肉痛、疲労、頭痛などが副作用として報告されています。これらは、他の疾患のワクチンでも接種後によく発生する副作用です。これまでのところ、ワクチンの安全性に関する重大な懸念は報告されておらず、安全性データはFDAと専門家委員会によって継続的にモニターされています。

 

ワクチン接種の留意点とは?

 米国疾病予防管理センター(CDC)によると、現時点では、重度のアレルギー(アナフィラキシーなど)がある人はファイザー/ビオンテック社製ワクチンを接種すべきではないとされています。また、重症疾患を持つ人や虚弱な人も注意が必要とされています。新型コロナワクチン接種後の死亡例は稀に少数報告(強い因果関係はないとされている)されており、新ガイダンスによれば、「医師は、ワクチン接種者ごとに、接種の有益性が、潜在的な副作用リスクを上回ることができるかどうかをちゃんと評価した上で接種に臨むべきである」という見解です。

 引用文献:​

  1. Coronavirus Vaccine Tracker: The New York Times: https://www.nytimes.com/interactive/2020/science/coronavirus-vaccine-tracker.html

  2. U.S. Food and drug administration: https://www.fda.gov/

  3. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  4. Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/

  5. COVID-19 vaccine – Wikipedia: https://ourworldindata.org/

  6. BBC News: https://www.bbc.com/news 

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 Vol.4  「新型コロナ変異株って危険なの?」

2021年2月5日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

 わずか1年ほどで、新型コロナウイルスは世界で1億人以上に感染し、200万人以上の命を奪いました。この流行が沈静化する前に、最近いくつかのウイルス変異株が出現し、多くの地域でパニックに陥りました。

 感染が拡大するにつれ、世界中の多くの研究グループがウイルス株の遺伝子配列を決定し、国際的な共同作業でGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data)データベースにアップロードし、新型コロナウイルス遺伝子配列をまとめています。

 これによって、パンデミックの過程で出現した新しい変異株の追跡調査がなされています。

 今号ではウイルスの変異について解説します。 “→”部分はやや専門的な記載となりますので、読み飛ばしてください。

 

変異とはすべてのウイルスで珍しい現象ではない

 2021年1月までに、新型コロナウイルスの30万もの変異株が同定されました。この変異の数は一見恐ろしいように見えますが、それは自然に発生するものであり、すべてのRNAウイルスでおこっています。新型コロナウイルスは、約1つの新しい変異を2週間ごとに発生しますが、大半の変異はウイルスにほとんど影響を与えず、これまでのほとんどの変異株はいつの間にか消えています。

 

ただし、専門家が懸念するいくつかの注目すべき変異があります。

 中国武漢で最初に検出されたウイルスは、世界のほとんどの地域で見られるものとは既に異なります。

(→スパイク蛋白質の614番目にあるアミノ酸が、アスパラギン酸(生化学的略記ではD)がグリシン(同G)に置き換えられたことから名付けられたD614G変異株)    

 この武漢での変異株D614Gは、2020年2月にヨーロッパで出現し、世界的に流行しているものとなりました。 この変異は、嗅覚皮により多く感染し、嗅覚喪失の症状が発生しやすくなります。

(→受容体結合ドメイン(RBD)のアンジオテンシン変換酵素II (ACE2受容体)へのより強い結合を起こす)

 もう1つの変異株はスペインで夏休み期間中に猛威をふるい、その後ヨーロッパ中に広がり、A222Vと呼ばれています。

 さらに、2020年秋には、英国(B.1.1.7)、南アフリカ(B.1.351)、ブラジル(P.1)という新しい変異株が登場しました。

 これらの変異株は、感染力が強くなる傾向が報告されており、警戒されています。

→スパイク蛋白質のRBD の変異を含む複数の変異を含んでいる。新型コロナウイルスは「スパイク蛋白質」を介してヒト細胞に入り込むことが明らかになっています。スパイク蛋白質がヒト細胞のACE 2受容体に結合すると、ウイルス膜がヒト細胞膜と融合し、ウイルスの遺伝子がヒト細胞内に入ります。ウイルスのRBDが変異することで、ウイルスとACE 2がより高く親和することになります)

 英国のB.1.1.7型変異は以前に流通していたウイルスよりも感染力が強く、感染率は50%~70%増加すると推定されるとの仮報告があります。

→新たに出現した3つの変異株のすべてに見出される変異N501Yは、ウイルスと細胞との間の結合親和性を増加させ、それにより、ウイルスをヒト細胞により強く結合させます。)

 

感染力が強い変異株はより重症化させるのか?

 ただし、感染力が強いからといって必ずしも危険だというわけではありません。現在のところ、英国変異株がより重い症状となることを示す証拠はありません。1月22日、英国ボリス・ジョンソン首相は、「英国の変異株はより致死率が高い可能性がある」と述べましたが、その後、英国政府は「B.1.1.7変異株の危険度は高くない」と当初の見解を修正しました。英国政府によると、「新型コロナの最初の株では1,000名の60歳代の男性のうち平均して10名が感染後に死亡しましたが、変異株では平均13~14名が感染後死亡しているという新たな証拠が示された。」とのこと。しかしながら、重症度に対する変異株の影響がなくても、それがより広がることにより医療が逼迫し、結果的に高い死亡率につながる可能性があります。

 

現行のワクチンは変異株に対しても有効?

 もう1つの懸念は、ワクチンと現在の治療薬が新しい変異株に対しても有効であるかどうかです。ファイザー社とモデルナ社は、実験室レベルのテストで、ワクチンは新しい変種に対しても有効であることが示されたと報告しています。リジェネロン社もまた、彼らの抗体カクテル療法は変異にもかかわらずウイルスを中和できると報告しています。

 さらに多くのエビデンスが必要ですが、専門家は「ワクチンと治療薬は今のところまだ有効である」と考えています。

 

変異株の流行をどう考えれば良いのか?

 変異株が発表されるたびにパニックを起こす必要はありません。

 新しい変異株ウイルスは、常に出現し、あるいは消失したり、拡大したりしています。

 結論として、これらの変異種に立ち向かう最善策とは、これまで通り警戒を続けることです。その新たな対策を考えるまでもなく、ウイルスの拡散を防ぐために誰もがこれまでにやってきたことを継続していくことが唯一、且つ最善の対策となるという見解が世界中で一致しています。

 引用文献:​

  1. U.S. Food and drug administration: https://www.fda.gov/

  2. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  3. Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/

  4. GISAID: https://www.gisaid.org/

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 Vol.5  「新型コロナウイルス感染症の重症化リスクって?」

2021年2月15日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

 新型コロナウイルスは誰もが感染・発症する可能性があり、発症した場合、軽症で済む場合もあれば、重症に至る場合もあり様々です。インフルエンザのような、ウイルスにより引き起こされる呼吸器の病気では、体質や既往症などでリスクが高くなることが知られており、一部の人は罹患し重症化する場合があります。これらは一般に「リスク」と呼ばれています。例えば、高齢者や特定の基礎疾患がある人などはリスクが高いです。

 新型コロナウイルスで重症となる場合、入院が必要で、人工呼吸器が備わっている集中治療室に入ります。最悪の場合、死に至ることさえあります。

 これまでのところ、「重症化」の最大のリスクは年齢であると一般的に考えられており、米国疾病予防管理センター(CDC)によると、米国内の新型コロナウイルス感染症での死亡者10名のうち8名の割合が65歳以上の方でした。日本の場合、新型コロナウイルス感染症の年代別の重症化率はどうであったか、以下に表で示します。

コロナ学術情報コラムVol5.png

 この表から分かるように、年齢が重症化のリスクを増加させることは明らかです。またWHOは、年齢に加え、次の症状がある人が重症化リスクが高いと警告しています。

・がん

・重度の肥満(BMI≥30kg/ m2)

・慢性腎臓病

・II型糖尿病

・COPD(慢性閉塞性肺疾患)

・心不全、冠状動脈疾患、心筋症などの心血管疾患

・喫煙

・妊娠

・ダウン症

・かま状赤血球症

 

 これらのリスクのすべてに明確な説明がつくわけではありませんが、研究者たちは、いくつかの推測を行っています。年齢に関しては、老化(すなわち、体内生理機能の劣化)は小児にはなく、若年成人でもごくわずかしかみられません。しかし、後々、継続して身体機能の全般的低下をもたらしていきます。回復力の低下は、感染を含むあらゆる種類の疾病に必然的につながります。さらに、加齢により、心機能と損傷修復能の両方が低下することが知られており、また新型コロナウイルスは、心機能を時には重度に低下させる心筋損傷を引き起こすことが知られています。そのため、心筋症や虚血性疾患のような新型コロナに関連した心臓発作は、一般に若年者よりも高齢者に重大な影響を及ぼすと考えられています。加えて、幼児、特に幼稚園や保育園に通う子供たちは、他の年齢層よりもはるかに多くの風邪をもらいます。その原因となる病原体に含まれるのは、新型コロナウイルスと似ている4種類のコロナウイルスがあります。コロナウイルスに感染すると、これらの旧来のコロナウイルスにより獲得された免疫力により、ある程度は新型コロナウイルスにも抵抗できるのではないかという仮説があります。これを「保護的交差免疫」と呼びます。

 (→B細胞およびT細胞という免疫細胞に「免疫記憶」を生じさせることが知られており、これは新型コロナウイルスにある程度の保護的交差免疫を与えると思われます。しかし、現時点では明瞭に証明されていません。)

 もし、保護的交差免疫を持っている、しかしながら年齢とともに免疫が弱まるとすれば、子供たちは、大人、特に高齢者よりも免疫があると言うことになります。

肥満とは、脂肪の量が増加し、間違った場所に蓄えられることです。脂肪は肝臓や骨格筋に蓄えられ、これにより体の代謝を妨げます。代謝が妨げられると、炎症のような異常が発生します。肺内部の脂肪が増加すると、肺がウイルスに対処する機能も妨げられます。

 (→炎症性サイトカインと呼ばれる分子の増加や、肺を直接保護するアディポネクチンと呼ばれる分子の減少など、さまざまな異常が発生します。)

 また、すでに特定の健康上の問題を抱えている人の場合、ほとんどの病気によって免疫力が低下することが知られています。そのため、必然的に新型コロナウイルス感染症が重症化しやすくなります。

           

 新型コロナウイルス感染症重症化リスクを踏まえて、次の事柄にご注意すべきであると世界各国の保健機関から注意喚起がなされています。

 

・たくさんの人が集まる場所には気をつけてください。

・新型コロナ感染症に罹患した場合、既往症の影響をよく理解してください。

・罹患したときに必要になるかもしれない治療を予め予期しておきましょう。

・既往症を管理することで、重症化リスクを軽減できます。

・もし新型コロナウイルス感染症重症化リスクが高い場合は、他人との接触を可能な限り避け、どうしても他人と接触する場合は、感染しないように細心の注意と予防策を講じることをお勧めします。

 引用文献:​

  1. U.S. Food and drug administration: https://www.fda.gov/

  2. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  3. Centers for Disease Control and Prevention: https://www.cdc.gov/

  4. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第4.1版

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 Vol.6  「免疫記憶による、ワクチン効果持続への期待」

2021年2月25日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

 突然あらわれた新型コロナウイルスと、その感染拡大は、ワクチン開発を加速し、既に約200のワクチン候補が開発されました。一般的にワクチンは臨床現場に届くまでには、何年もの研究・開発と臨床試験を必要としますが、感染拡大を食い止めるために、研究者たちは安全かつ効果的なワクチン開発と接種を、これまでにない速さで急いでいます。世界保健機関 (WHO) の統計によると、これまでに1億5900万回以上の接種が世界76カ国で行われました。新型コロナウイルスへの再感染をどのくらいの期間防げるか、またどのような免疫過程が関与しているかが、感染拡大の今後を予測する鍵となります。

 これまで行われたいくつかの研究により、「新型コロナウイルスに対する免疫がどれだけ持続するか」に関して、新型コロナウイルス感染症罹患者の抗体価が、感染からわずか2カ月後には激減していたことがわかっています。一部では、これらの人々は再感染しやすく、長期間効果が持続するワクチンの開発は困難で、広範な集団免疫獲得はできないのではないか、との心配があります。

 しかし、ヒトの免疫記憶は抗体だけで構成されているわけではないため、抗体価から想像されているよりも、ずっと強力かもしれません。人体が特定の病原体による脅威にさらされた後、現在は直面していない場合(即ちいったん感染したが、回復し今は感染していない状態)は、その病原体に対抗する抗体は大量に体内に存在する必要がありません。免疫系の記憶細胞 (Tリンパ球やBリンパ球など) がいったん作られると、必要なときに必要に応じて、新しくその特異的抗体を迅速に作ることができます。さらに、免疫記憶はNK細胞(ナチュラルキラー細胞)によっても確立されます。NK細胞はハプテンまたはウイルスに反応し、抗原特異的記憶細胞を産生します。したがって、特異的な、新型コロナウイルス抗体の数が著しく減少したからといって、新型コロナウイルスからの再感染に対する迅速な防御ができないわけではありません。むしろ、関連する抗体の減少は、単に「今は必要ではない」ということです。

 幸いなことに、免疫記憶が長期間持続することを示す新たな研究が最近いくつか発表されています。科学誌「Science」に掲載された研究によると、新型コロナ感染症から回復した人のほとんどが、再感染を防ぐ免疫記憶を少なくとも8ヵ月間持続していることが分かりました。この研究は、免疫記憶の4つの構成要素(血中を循環する抗体、メモリーB細胞、ヘルパーT細胞、およびキラーT細胞)すべてが測定されているので、これまでのところ、全ての急性感染症に関する最大規模の研究として知られています。科学誌「Nature」に発表された別の研究結果では、新型コロナ感染症に対するメモリーB細胞の反応は、感染後6ヵ月まで持続する可能性があると結論づけています。中和抗体価は経時的に低下しましたが、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の受容体結合ドメインに特異的なメモリーB細胞は、感染後最長6カ月間持続していることが発見されました。これらのメモリーB細胞は、中和能力および守備範囲の広さが大きい抗体を生成することさえできます。

 これら2つの研究は、科学誌「Science Immunology」に発表された以前の研究とも一致する結果を示しています。メモリーB細胞は新型コロナ感染症発症後急速に増加しました。感染初期、メモリーB細胞は主にIgM抗体を作りました。時間が経過すると、メモリーB細胞が作るIgG抗体の割合が明確に増加しました。この変化はB細胞が成熟する正常な過程を反映しています。B細胞が本来産生するIgM抗体もウイルスを中和することができますが、その中和効果は必ずしも最良のものではなく、成熟過程において、B細胞は遺伝的変異を介して中和抗体や抗原の親和性を調節し、抗原に対する親和性が高く中和能の強いIgG抗体を産生します。さらに、メモリーB細胞、特にIgGを産生するメモリーB細胞のレベルは、本研究では症状発症後200日以上安定していました。

 免疫記憶は再感染の予防に関与しており、これらの研究によりワクチンがもたらす予防効果が長期間となる可能性についてのエビデンスを提供してくれます。これら研究の結果は有望ですが、この感染拡大は単純なものではありません。新型コロナウイルスに対する免疫応答のスペクトルの広さは、ワクチンに対する応答の範囲の広さを意味します。全ての人が同レベルの予防接種を受けられるわけではなく、まったく接種を受けられない人もいます。さらに、高齢者の免疫反応は子どものものとは異なるなどの理由で、万能ワクチンを作るのは難しいと言えます。ワクチンが効果的な免疫をもたらすかどうかという課題は、より多くの臨床試験によってのみ解決できます。世界中の研究者は、発症後の患者の長期間の免疫反応を追跡するために、新型コロナウイルス感染症を発症した患者から採取されたサンプルの分析を継続して行っています。

 引用文献:​

  1. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  2. Jennifer M. Dan et al. 06 Jan 2021. “Immunological memory to SARS-CoV-2 assessed for up to 8 months after infection” Science.

  3. Christian Gaebler et al. 06 Jan 2021. “Evolution of antibody immunity to SARS-CoV-2” Nature. 

  4. Gemma E. Hartley et al. 22 Dec 2020. “Rapid generation of durable B cell memory to SARS-CoV-2 spike and nucleocapsid proteins in COVID-19 and convalescence” Science Immunology.

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 Vol.7  「デジタル技術を活かした新型コロナウイルス感染症との戦い」

2021年3月4日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

(注意:より専門的な内容については“(→ )”内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

 

 新型コロナウイルスとの戦いにおいて、医療システムは要です。感染が拡大するにつれ、そのデジタル技術は、明らかにこの病気に対する新たな戦いの場となりました。デジタル技術で感染拡大を防ぐことはできませんが、感染拡大を予測し、その対処法を予見したり、警告したり、現場の医療者が状況を把握することに役立ちました。これにより、パンデミックの影響は大幅に減らすことができました。昨今では、モバイル、クラウド、ビッグデータ、ロボット工学、AI (人工知能)/ML (機械学習)およびウェアラブルデバイスのような統合技術の出現により、いくつかの革新的な方法を試してみることが可能になりました。 今号は、デジタル技術が重要な役割を果たしている分野にフォーカスしてみましょう。

 

・医療への支援(日本国外のエピソードも含んでいます)

 現在、新型コロナウイルス検査において、誤診率を下げ、医師の負担軽減のために、コンピュータ断層撮影 (CT) 画像を分析するAIツールが使われております。AIとビッグデータは、医療資源の配分や、病院の収容能力、医薬品の分配、病歴による患者の識別などを含む意思決定の指針においても重要な役割を果たしています。米ジョンズホプキンス大学公衆衛生学部の研究チームは、ビッグデータ分析を活用した新型コロナ感染症の死亡リスクの計算ツールを開発しました。このツールは、どのグループの人が最初にワクチン接種を受けるべきかの手引きとして利用されています。米スクリプス研究所(生物医療科学の研究と教育を行っている非営利の医療研究施設)は、心拍数、睡眠パターン、皮膚温度などの生理学的データを組み合わせて、新型コロナウイルス感染症を早期に感知できるウェアラブルデバイス(身体に装着するデバイス)について発表しました。米ニューヨーク大学の研究チームは、新たに新型コロナウイルス感染症と診断された患者のうち、重症化を正確に予測できる人工知能アルゴリズムを開発しました。このように、AIは新型コロナウイルス感染症の治療にも大きく貢献し、多くの製薬会社がワクチンや治療薬の開発にAIを使っています。(→AIを薬物スクリーニングの補助に利用しています。例えば、EVQLVというスタートアップ企業は、何億もの治療用抗体をコンピュータで生成、スクリーニング、最適化できるアルゴリズムを開発しています。彼らのMLアルゴリズムを用いて、成功率が高い治療用抗体を迅速にスクリーニングすることができます。)

 

・デジタル疫学調査

 今日では、デジタル技術を用いて、政府機関がさまざまなリアルタイムの公衆衛生データを使用し、疾患の危険因子を特定し、効果的な介入が可能になりました。例えば、英国とシンガポールでは、オンラインの症状報告システムを導入しました。これは患者の見守りに利用されていますが、患者隔離に関するアドバイスや、高度医療機関への転院に関するアドバイスも提供しています。このようなサービスは、公衆衛生情報として、患者隔離などの具体的行動につなげることができます。公衆衛生当局のミッションとして、感染者が隔離された後、濃厚接触者を迅速に追跡し、さらなる感染拡大を防ぐ必要がなければなりません。特に感染率が高い地域では、このモニタリングと介入が重要です。そこで、デジタル接触追跡ソリューションが登場しました。デジタルツールなしでは再現できないスケールとスピードで濃厚接触者の追跡を自動で行えます。(→これにより、当局によるリコールへの依存度が低下しますが、これは人口密度が高く人の移動が多い地域では特に問題となります)。デジタル接触追跡アプリは今や世界中に広まっています。しかし、これらの新しいテクノロジーは、これほど大規模に試みられた経験がなく、個人情報保護の観点から議論を呼んでいます。

 

・ビジネス・教育の変革

 パンデミックのために、世界中の学校が閉鎖されています。その数は、累計で12億人以上と試算されています。また、多くの企業は、通勤や社会との接触を減らすために、従業員に在宅勤務やリモート業務を求めています。その結果、デジタル・プラットフォーム上で授業を行うe-ラーニングやビデオ会議が急速に発達、普及し、ビジネスや教育分野へのIT化が劇的に進みました。ある調査によると、オンライン学習は学習内容の定着率を向上させ、教育時間を短縮することが示されています。つまり、パンデミックにより、もたらされた新しいこのような新しい様式は、その価値が高いことが実証されたため、収束後の世界でも継続して利用されることでしょう。さらに、この感染症により、様々な国において、情報入手の平等性と適時性も加速されました。米ジョンズホプキンス大学システム科学工学センター (CSSE) では、世界中の症例をリアルタイムに統合するプラットフォームを構築し、世界中で利用されています。各国でアップロードされたウイルス遺伝子配列をリアルタイムに解析するオープンプラットフォーム「世界共通インフルエンザ・データイニシアティブ」 (Global Shared Influenza Data Initiative:GISAID) も、国境を越えた研究や解析のための資料となります。米ホワイトハウス科学技術政策局は、138,000もの新型コロナウイルス感染症に関する学術論文を公開しました。リソースの共有や世界中の科学者にAI分析の利用を呼びかけることで、新型コロナウイルス感染症の分析を加速させたいと考えています。世界最大の学術出版社であるエルゼビア社も、31,000本以上の学術論文を無料で提供しています。

 

・ロボットの様々な用途

 他人との接触を減らすために、受付スタッフの代わりにロボットを使う機関がますます増えています。特に病院では院内感染の観点からロボットを使う方が安全と言われています。インドでは、ルワンダの病院にロボットが持ち込まれ、検温や医療記録の保管などの作業を行うことで、医師が患者と接触する時間を減らすことができました。イタリアのポロクリニコ・アバノのチェーン病院では、患者の病室の消毒にUVDロボットを使用しています。(→このロボットは病院内を自律的に移動し、紫外線を照射してウイルスを死滅させることができます)。さらに別の例として、ソフトバンク製のロボットであるPepper(ペッパー)があります。ペッパーは、かわいいだけでなく、人間と対話することができるように設計されています。 ペッパーは、小売業、金融業、サービス業、観光業、さらにはヘルスケアなど、さまざまな業界で活用されています。パリのピティエ=サルペトリエール大学病院に患者が家族と連絡を取り合えるように、4台のペッパーが貸し出されました。ペッパーには、ビデオ電話を表示できるタブレットが搭載されています。ペッパーは、電話の最中であれ、その前後であれ、隔離された患者に前向きで楽しい経験を提供することができます。また、ドローンが医療サンプルや医療用品の輸送に利用され、患者教育用メッセージを空輸するためにも利用されています。

 

 本号ではデジタル技術をどのように利用できるかについて、ごく限られた例のみを紹介しました。もし、いま、デジタル技術がなければ、新型コロナウイルス感染症の世界的流行は全く異なる形をとっていたことは明らかです。技術革新はあらゆる業界に影響を与え、世界中の企業は、そのアプローチを見直し、新しいソリューションに投資し、将来影響を及ぼす可能性のある同様の危機に備えています。

 引用文献:​

  1.  Karol Przystalski. 15 Dec 2020. “Technology Against COVID-19: IT Solutions for Fighting the Pandemic” CODETE News.

  2.  Manjunath B S. “Covid-19: 8 ways in which technology helps pandemic management” ETCIO news.

  3.  Respective company news release

アンカー 8

 Vol.8  「新型コロナウイルス感染症の後遺症は回復後の生活に大きな影響を及ぼす」

2021年3月12日 最終更新 Cellspect Co., Ltd

(注意:より専門的な内容については“(→ )”内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

 

 新型コロナウイルスによるパンデミックは、世界各国の取り組みにより徐々に収束しつつあります。 一方、WHOの欧州地域本部長は、2月25日の記者会見で、欧州で10人に1人の新型コロナ感染症罹患者が、回復後12週間経っても依然不快感を持ち、その経過が長期化していることを報じました。また、WHOも回復後の長期的な影響について、理解していく必要性を述べています。

 新型コロナウイルス感染症の後遺症は「ロングCOVID」と呼ばれ、その症状は新型コロナウイルス感染症に典型的なものであり、回復以降、長期にわたります。これまでのところ、大半の患者は2~3週間以内に完全に回復し、それ以外の患者では数週間から数カ月以上症状が持続しますが、なぜその違いがでるかについての理由は解明されていません。若年の健康な人や軽い症状しか示さなかった患者でさえ、「ロングCOVID」に苦しむことがあります。

 英国国立健康研究所による初期の解析では、新型コロナウイルス感染症の後遺症は、以下の4つに分類されるのではないかと示唆しています。

1. 肺と心臓への恒久的な損傷

2. 集中治療後症候群(PICS)

3. ウイルス感染後疲労症候群、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群

4. 新型コロナウイルス感染症の症状継続

 

 つまり、ウイルス感染による肉体的損傷、及び治療による影響が、新型コロナウイルス感染症の後遺症となって現れます。最も多く報告されている後遺症には以下となります。

・倦怠感、頭痛、微熱

・息切れ、咳、胸痛

・関節痛、筋肉痛、脱力感

・うつ病、認知障害

 

 さらには、それほど一般的ではありませんが、以下のような深刻な合併症が報告されています。

 

・循環器系:心筋炎、心室機能障害

・呼吸器系:肺機能異常

・腎臓:急性腎障害

・皮膚科:発疹、脱毛症

・神経性疾患:嗅覚・味覚障害、睡眠調節不全、認知機能の変化、記憶障害

・精神的:不安、気分変動

 

 米国国立衛生研究所は、新型コロナウイルス感染症に関する暫定ガイドラインを公開しており、これには回復後の後遺症に関しても述べられています。長期間続く後遺症の解明には、長い時間の研究が必要です。このガイドラインは新たな情報が得られ次第更新されていきます。これらの情報から、このウイルスに対する治療戦略や公衆衛生対策の情報を得ることができます。

 これまでのところ「ロングCOVID」に対する有効な治療法はどの国からも見いだされていません。対症療法で症状緩和するしかありません。多くの国でパンデミックを軽視したがために大きな犠牲を払ってきました。世界的流行はいつかは過ぎてしまうとしても、まだ多くの課題が残っているようです。現在、米国では健康追跡、後遺症相談、医療支援を行う「新型コロナウイルス感染症回復者支援グループ」があります。

 日本では未だ回復者へのケア体制は顕著ではありませんが、今後、回復者に対する公的支援のあり方の議論が必要となるでしょう。

 引用文献:​

  1. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  2. CDC “Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines”: https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/

  3. Taquet M et al. November 2020. "Bidirectional associations between COVID-19 and psychiatric disorder: retrospective cohort studies of 62 354 COVID-19 cases in the USA". The Lancet. Psychiatry.

アンカー 9

 Vol.9  「3種類の新型コロナワクチンの副反応について」

2021年3月19日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

(注意:より専門的な内容については“(→ )”内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

 

 新型コロナワクチンの接種は、感染予防や、重症化を防ぐ効果があると言われています。一方、新型コロナワクチンに限らず、あらゆるワクチンには副反応という有害な症状も生じることがよく知られています。これは、あなたの身体が防御態勢を構築している兆候であるとも言えます。現在、世界中で報告されている副反応は日常生活に支障をきたすレベルのものもありますが、おおよそ数日で回復すると報じられています。

 本稿では、今後、日本でも利用される可能性がある3種類のワクチンの副反応について採りあげます。

 

 第三相臨床試験の結果によると、ファイザー/ビオンテック(BNT)社、モデルナ社およびアストラゼネカ(AZ)社製ワクチンのいずれも、いくつかの副反応が確認されています。  

 

   ・若い人は年配の人よりも副反応の発生率が高い ․

   ・アデノウイルスベクターワクチン(アストラゼネカ社製ワクチンなど)の場合、 1回目の接種の方が、2回目の接種よりも副反

    応の発生率が高い ․

   ・mRNAワクチン(ファイザー/BNT社製ワクチンなど)の場合、 2回目の接種の方が、1回目の接種よりも副反応の発生率が高い

    

 主要なワクチン開発会社3社の第3相臨床試験結果から報告された副反応発生率を以下に示します。

仮コロナ学術情報コラムVol9-1.png

 ほとんどの新型コロナのワクチンは、2回の接種が必要です。予防接種を受けた後に副反応が出たとしても、主治医から2回目の接種をしないように言われない限りは、2回目の接種を受けるべきと考えられています。予防接種をしてから身体が保護されるまで、時間が必要です。2回の接種が必要な新型コロナの予防接種は、2回目の接種を受けてから1~2週間後でないと予防効果が得られません。ほとんどの場合、発熱や、注射部位の痛みは典型的なワクチンの副反応です。 次のような場合は、担当の医師または医療従事者に連絡するべきであるとされています。

    

   ・接種部位の発赤や圧痛が、接種後24時間以降に強くなる

   ・副反応が全般的に強く起こっている場合や、数日たっても症状が治らない場合

 

(→心配されるワクチン接種後のアレルギー反応について、2月26日の米疾病予防管理センターの会議で発表された「ワクチン及び関連生物製剤諮問委員会」を以下にまとめます。)

コロナ学術情報コラムVol9-2.png

 米国ではまだアストラゼネカワクチンを投与しておらず、一方、英国ではまだモデルナワクチンを投与していません。

 計1,099例の死亡例を調査しましたが、ワクチン接種とは無関係であることが発表されています。なお、接種後の重度なアレルギー反応の発現率は極めて低いですが、接種後は同じ場所で30分間安静待機することが推奨されています。

 引用文献:​

  1. World Health Organization: WHO https://www.who.int/

  2. CDC “Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Treatment Guidelines”: https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/

  3. UK Medicines and Healthcare Products Regulatory Agency: https://www.gov.uk/government/organisations/medicines-and-healthcare-products-regulatory-agency

アンカー 10

 Vol.10  「新しくJ&J新型コロナワクチン参上:ワクチンの「有効性」とは?」

2021年3月26日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

(注意:より専門的な内容については“(→ )”内に記載しました。こちらは、読み飛ばしてください。)

 

 ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)社の新型コロナワクチン (Ad 26.COV 2.SまたはJNJ-78436735とも呼ばれる) は、2月24日に米国FDAが緊急使用許可を承認し、3月11日には欧州委員会から条件付き販売認可を受け、ファイザー社とモデルナ社のワクチンに続いて3番目に米国市場に参入しました。

 

 J&Jワクチンは、アデノウイルスに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子を添加することにより免疫応答させます。(→一本鎖RNAを使用するファイザー社やモデルナワクチン社とは異なり、J&Jワクチンは二本鎖DNAを使用しています。)

 

 米国、中南米、南アフリカで約44,000人が参加した第3相臨床試験では、死亡を予防する効果は100%、中等度から重症までの予防効果は66%、重症の予防効果は85%でした。南アフリカの変異株に対しても予防効果があったことは特筆できます。さらに、その保管方法はマイナス20℃で2年、2~8℃でも少なくとも3カ月間安定で、また1回の接種で済むため、物流面でも大きな利点があります。

 

 ワクチンにとって「有効性」とは実際には何を意味するのか?、と多くの人が疑問に思っています。有効性はワクチンの臨床試験では重要な概念ですが、難しい概念でもあります。ワクチンの有効性が例えば95%の場合、そのワクチンの接種を受けた人の5%がコロナに感染することを意味するわけではありません。統計学的に有効性とは、ワクチンの接種で「新型コロナウイルスに感染するリスクを減らす」ことを示す指標です。例えば、J&Jはワクチンを接種したにもかかわらずコロナに感染した人数を調査し、プラセボ (ワクチンではない偽薬)を接種後新型コロナウイルスに感染した人数と比較しました。感染リスクの差は、0%はワクチン接種を受けた人がプラセボを投与された人と同程度のリスクにあることを意味し、100%であればワクチン接種によってリスクが完全に排除されたことを意味する割合として計算します。

 

 J&Jワクチンを例にとると、米国でプラセボ接種群の5,000人中約63人が発病したのに対し、ワクチン接種群では18人が発病したため、有効性は72%となります。つまり、リスクの減少は (63-18)÷63=71.4% と算出されます。

 

 ファイザー社ワクチンの場合、有効率は95%なので、同じような状態であれば、ワクチン接種群で3名しか発病せず、リスク減少は (63-3) ÷63=95% と算出できます。

 

 有効性は、試験実施場所など、試験の条件により異なります。J&Jは米国、中南米、南アフリカの3カ所で試験を行いました。有効率は、米国で72%、南アフリカで64%でした。 (→全体的な有効性が米国のみでみた場合よりも低かった理由の1つは、南アフリカでの試験が、新規変異株が同国を席巻した後に行われたことです。この変異株はB.1.351と呼ばれ、ワクチン接種によって産生される抗体の一部を回避する変異を有します。しかし、この変異株はワクチンを全く役に立たないものにはしませんでした。)

 

 いくつかの理由から、これらのワクチンを正確に比較することは非常に困難です。 (→あるワクチンは他のワクチンよりも有効性が高い可能性がありますが、その統計的信頼区間は重なる場合があります。これにより事実上結果を区別できなくなります。)

 

 さらに複雑なことは、パンデミックのさまざまな段階にある、さまざまなグループの人々を対象に、ワクチンの試験が行われたことです。加えて、それらの効果を異なる方法で測定したことです。例えば、J&Jワクチンの有効性は単回投与28日後に測定され、モデルナの有効性は2回目の投与14日後に測定されました。

 

 臨床試験は、あらゆるワクチンの研究の最初のステップにすぎません。研究者たちは、ワクチンの使用が拡大することで性能を追うことができます。研究者たちは現在、効果ではなく、有効性を追っています。ワクチンが病気のリスクをどれだけ減らすかを、数千人ではなく、数百万人単位といった大規模測定を行っています。今後数ヵ月のうちに、研究者らはこのデータに目を光らせ、ワクチンの免疫を作る効果が低下したり、新たな変異型の発生により有効率が低下しないかどうかを調べる予定です。

 引用文献:​

  1. U.S. Food and Drug Administration: FDA https://www.fda.gov/ 

  2. Johnson & Johnson: https://www.jnj.com/ 

  3. Carl Zimmer and Keith Collins. 3 Mar 2021, “What Do Vaccine Efficacy Numbers Actually Mean?” The New York Times.

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