Vol.51 「殺菌できるプラスチック素材が誕生。製品化容易に」
2022年10月14日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
照明を利用して、新型コロナなどのウイルスや菌を殺す「光触媒」の技術を用いた、ポリ袋ほどの薄さのプラスチック素材を、カナダのクイーンズ大が開発した。
殺菌力が確かで、非常に軽く、丈夫な素材。低コストで生産できることから、医療現場で使い捨てされているマスクやガウン、帽子などの医療用防具の材料になると期待されている。
新型コロナウイルスは、プラスチックなどの硬い物質の表面で72時間生存する。インフルエンザウイルスや、抗生剤が効かないスーパー耐性菌は、4~5日も生き続けると言われている。
殺菌作用を持つ素材として、2020年頃から金属の銅※が注目されていたが、堅く重い銅を製品に取り入れることが難しかった。
(※銅の表面に付着した新型コロナウイルスは、約30分で不活性化し、4時間後には完全に死滅すると、2020年に米国立衛生研究所が発表した)
そんな中、クイーンズ大の研究チームは、光触媒を用いたプラスチックの新素材を開発。
光触媒とは、「酸化チタン(TiO2)」に、紫外線を当てると起こる殺菌作用のこと。酸化チタンが空気中の酸素と水の結合を促し、発生した“活性酸素”がウイルスや菌を殺す。
しかし、プラスチックに酸化チタンを混ぜ込むと、光触媒が起こらないことから、光触媒の製品は、酸化チタンをコーティングしたもの等にとどまっていた。
同大は、酸化チタンを混ぜ込んだプラスチックに紫外線の一種「UVA」を144時間照射すれば、光触媒の機能が衰えないことを発見。蛍光灯のような弱い紫外線でも反応する酸化チタンを使い、室内でも機能する、薄さ30マイクロメートルのプラスチック素材を開発した。
この素材に4つのウイルス(新型コロナ、インフルエンザ2種類、ピコルナ)を付着させたところ、約100万個のウイルスが1時間で全て死滅した。
UVAを当てるだけで作れるため、コストがかからず、大量生産しやすい。また、軽量で柔らかく、丈夫な素材のため、あらゆる製品の材料に使えると言われている。
殺菌効果が高く、さまざまな製品を作れる素材として、まずは使い捨ての医療用防具に活用を見込む。さらに、ウイルスが付着しやすく、人が触れる頻度が高い、テーブルや手すりなどを覆うクロスに用いれば、消毒液を使わずに、感染拡大を大幅に抑えられると言われている。
引用文献:
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Ri Han et al., Aug 25, 2022 “Flexible, disposable photocatalytic plastic films for the destruction of viruses” J Photochem Photobiol B
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James Gallagher, Sep 10, 2022 “Self-sterilising plastic kills viruses like Covid” BBCnews
Vol.52 「新型コロナ、アルツハイマー病のリスク高める」
2022年10月28日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
新型コロナに感染した高齢者は、1年以内に認知症の一種であるアルツハイマー病を発症する可能性が高いことがわかった。
オランダの医学雑誌「Journal of Alzheimer's Disease」に掲載された研究によると、65歳以上の新型コロナ感染者は、同歳以上の未感染者に比べてアルツハイマーの発症率が、50~80%も高まる可能性がある。新型コロナ感染が、アルツハイマー病を引き起こす理由(経緯)は調査中だ。
この研究は米国で、2020年2月2日~21年5月30日の間、アルツハイマー病の既往歴のない65歳以上の600万人を対象に実施。
人種(ヒスパニック、白人、黒人)、年齢(65~74 歳、75~84 歳、 85歳以上)、性別(男、女)に分類し、新型コロナに感染したと診断された日から1年間を追跡。分類ごとにアルツハイマー病の発症率を調べた。
研究では、「新型コロナ未感染者の発症率」を分母に、「新型コロナに感染した人の発症率」を分子に置いたHR(ハザード)比から、新型コロナの影響度を調査。この計算で1より大きい値になれば、新型コロナ感染からアルツハイマー病の発症率が高まったことを示す。
結果、どの分類も1以上の値となり、中でも高い数値だったのは、「85歳以上」、「女性」だった。
人種別では、「黒人」は1・62、「白人」は1・61、「ヒスパニック」は1・25と、白人と黒人の値が高かった。
年齢別では、「65~74 歳」は1・59、「75~84 歳」が1・69、「85 歳以上」が1・89と、年齢が上がるほど値が高くなった。
性別では、「男性」1・5、「女性」1・82と、女性の方が高かった。
新型コロナウイルスがアルツハイマー病の原因を作りだすのか、もともとある因子を誘発するのかなど、発症のメカニズムは調査中。対象者の過去の生活習慣や持病を調べるなど、長期の追跡調査とデータ検証が必要だ。
「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計によると、2020年における65歳以上の認知症有病率は16.7%。認知症患者は約602万人で、6人に1人程度が認知症といえる。
認知症有病率は2060年には33・3%まで上昇すると予想されるが、認知症を完治させる治療法はいまだ無い。
もし、新型コロナの感染が認知症の発症率をさらに高めるとしたら、介護負担の深刻化が懸念される。発症のメカニズムを突き止め、早期に予防策を講じる必要がある。
引用文献:
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Lindsey Wang et al., Jul 29, 2022 “Association of COVID-19 with New-Onset Alzheimer’s Disease” Journal of Alzheimer’s Disease.
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Deidre McPhillips, Sep 19, 2022 “New Alzheimer’s diagnoses more common among seniors who have had Covid-19, study finds” CNNNEWS
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Pooja Toshniwal Paharia, Sep 19, 2022 “COVID-19 increases risk of developing Alzheimer's by 50-80% in older adults” News Medical Life Sciences
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Rod Tucker, Sep 28, 2022 “Alzheimer’s disease risk increased among patients with COVID-19” Hospital Healthcare Europe
Vol.53 「土に還る植物由来のマスク登場」
2022年11月11日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
日本国内における2021年度のマスク生産量※は、約160億枚。2018年は55億枚だったことから、新型コロナウイルスの流行で約3倍に増えたことになる。
※一般社団法人日本衛生材料工業連合会調べの「マスク生産数量」より。産業用、医療用、家庭用を合わせた数字。
一般的な使い捨てマスクの原料は、石油由来のプラスチック。プラスチックは、耐久性が高く、加工しやすい一方で、自然分解されず、半永久的に残るという欠点がある。
大量生産と消費に伴い、適切に廃棄されなかったマスクが、海や川に流れ出て環境を汚染したり、廃棄(焼却)時に大量の二酸化炭素が出て地球温暖化を促進するなど、使い捨てマスクがもたらす環境汚染や生態系への影響が、近年問題視されていた。
そんな中、アメリカ食品医薬品局(FDA)が10月、世界で初めて植物由来のマスクを、医療用マスクとして緊急使用許可※した。
※緊急使用許可(Emergency Use Authorization:EUA)
米食品医薬品局(FDA)が緊急時に未承認薬などの使用を許可したり、既承認薬の適応を拡大する制度
この植物由来のマスクは、カナダのバイオテクノロジー企業PADMメディカルが開発したマスクで、「プレシジョン エコ」という。
原料は、植物から作った有機物質(バイオポリマー)で、 微生物によって分解・発酵されて自然(土)に還るのが特徴。肥料(たい肥)になるため、産業活用できる。
また、廃棄(焼却)時に出る二酸化炭素は、原料の植物が育つ時に吸収したもののため、大気中の二酸化炭素量が変わらない。石油由来のマスクより、二酸化炭素の排出量を55%も抑制できると言われている。
形や機能は、一般的な医療用のサージカルマスクと同じ。通気性がよく、 細菌やウイルスへの防御力は98%と高く、口や鼻からの飛沫をしっかりと遮断する。
細菌濾過率(BFE%)、微粒子濾過率(PFE%)、呼吸抵抗性(mmH2O/cm2)、延焼性(Class1)透過性などは、全て国際基準を満たしているという。
PADMメディカルのマーティン・ペトラック(Martin Petrak)最高経営責任者は「今回の緊急使用許可が、環境配慮性の高い製品の開発を後押しするだろう」と、あるメディアのインタビューで語っている。
今年4月には、微生物の働きで土に還る生分解性の医療用ゴム手袋が、医療機器としてFDAに認証された。環境保全を意識した製品が、市場に流通し始めている。
新型コロナの感染拡大がいまだ続く中、持続可能な環境づくりを意識した医療関連製品は、今後重宝されるだろう。
引用文献:
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Oct 13, 2022 “World's first plant-based medical grade face mask authorized under EUA by U.S. FDA” PADM Medical.
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Andrea Park, Oct 14, 2022 “A green revolution: FDA hands down emergency OK to plant-based surgical face mask” FIERCE Biotech
Vol.54 「マウスウォッシュ液が感染予防に。北海道大が発見」
2022年11月25日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
マウスウォッシュ液(洗口液)に含まれている少量の殺菌成分「セチルピリジニウム塩化物水和物(CPC)」が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を不活化させる(感染力を失わせる)ことを、北海道大学大学院歯学研究院の樋田京子教授らの研究チームが8月に公表した。
市販のマウスウォッシュ液が新型コロナの発症、重症化を防ぐことを明らかにした。
CPCは、新型コロナウイルス表面の脂質膜(エンベロープ)を破壊し、ウイルスを不活化させる。ただ、この作用は、250µg/mL以上の高濃度での効果は以前から知られていたが、マウスウォッシュ液に使用される50µg/mL程度で効き目があるかわからなかった。
そこで、同研究チームが30~50µg/mL程度のCPCによる効果を検証。少量の場合、CPCはウイルスの「タンパク質」を壊し、(10分程度で)ウイルスの感染力を失わせることがわかった。
ウイルスの変異で変化したタンパク質であっても、CPCは作用(反応)することから、初期に流行した武漢株だけでなく、アルファ株、ベータ株、ガンマ株といった変異株にも効果を発揮する。
また、同量のCPCであっても、CPC単体よりも、マウスウォッシュ液のCPCの方が、殺菌効果が高いこともわかった。唾液でCPCの効果が薄れることもなかった。このメカニズムは研究中である。
新型コロナは、口や鼻を感染経路とする飛沫感染(エアロゾル感染)で広がる。口に含むマウスウォッシュ液での殺菌は、非常に効果的な感染予防策になる。
マウスウォッシュの抗ウイルス効果が確証されれば、ドラッグストアで販売されている身近な日用品で感染予防が可能になる。研究の進行に注視したい。
引用文献:
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Ryo Takeda, et al., Aug 18, 2022 “Antiviral effect of cetylpyridinium chloride in mouthwash on SARS-CoV-2” Scientific Reports.
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Oct 6, 2022 “Mouthwashes may suppress SARS-CoV-2” Research Press Release from Hokkaido Univ.
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Emily Henderson, Oct 6, 2022 “Mouthwashes inhibit the infectivity of SARS-CoV-2 variants” News Medical LifeScience
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“CPCのSARS-CoV-2に対する抑制効果を解明~CPC含有口腔製剤による新型コロナウイルス感染制御に期待~(歯学研究院 教授 樋田京子)”北海道大学 プレスリリース
Vol.55 「抗がん剤、新型コロナの重症化防ぐ」
2022年12月9日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
抗がん剤「HA15」が、新型コロナウイルスの重症化を抑えるとわかった。HA15は、がんの進行を促す細胞内のタンパク質「GRP78(Glucose-Regulated Protein 78 kDa)」の働きを抑制する薬。新型コロナウイルスの増殖を抑える効果があると、11月にカリフォルニア大学が学術雑誌(Nature Communications)で公表した。
GRP78とは、体内の細胞の表面と、細胞内部に常在するタンパク質。がんや糖尿病、高血圧などの疾患のほか、ウイルスの存在によっても増加する。
新型コロナウイルスは、ウイルス表面にあるスパイクタンパク質と、肺や心臓などに多く存在する受容体タンパク質「ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)」が結合して、細胞内に侵入する。
この時、スパイクタンパク質は、ACE2との結合を容易にするため、細胞表面のGRP78と結合して、ウイルスを細胞表面にとどめる。
つまり、細胞表面のGRP78が増えている疾患持ちの人は、ウイルスとACE2との結合が多くなり、細胞内のウイルス量が増え、重症化に至りやすい。
こうした細胞表面のGRP78の増加による重症化のメカニズムは解明されていたが、細胞内のGRP78が増えることによる影響は、明らかにされていなかった。
細胞内のGRP78は、体内のタンパク質を合成する機能があり、ウイルスのタンパク質も生成してしまう面がある。細胞内のGRP78が増えると、新型コロナウイルスの生成が促進され、重症化を促すと考えられていた。
そこで、GRP78の研究に長けたカリフォルニア大がこの仮説を実証。細胞内のGRP78が増えると、タンパク質を合成する機能が高まり、新型コロナウイルスが増加して、重症化に至ることを明らかにした。
さらにこの結果から、細胞内のGRP78の働きを抑える抗がん剤が、新型コロナの重症化予防に有効なことを発見。
抗がん剤「HA15」をマウスに投与したところ、(投与しなかったマウスに比べて)3日間で肺のウイルス量が10分の1まで減ったという。
新型コロナは流行当初から、基礎疾患を持つ人が重症化しやすいと言われていた。そのメカニズムが同大によって確立されたことになる。
既存の抗がん剤が、感染予防に活用できることがわかったのも大きな成果だ。
治療法の選択肢が増えれば増えるほど、今まで助からなかった患者を救えるようになる。研究の進展が楽しみだ。
引用文献:
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Woo-Jin Shin, Dat P. Ha, Keigo Machida & Amy S. Lee, Nov 14, 2022 “The stress-inducible ER chaperone GRP78/BiP is upregulated during SARS-CoV-2 infection and acts as a pro-viral protein” Nature Communications
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Helen Floersh, Nov 17, 2022 “2 diseases, one drug: How a drug for deadly cancer could treat COVID-19” Fierce Biotech.
Vol.56 「はしかワクチン4千万人未接種、新型コロナ影響」
2022年12月23日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
はしかの予防接種を終えていない子どもが、2021年末時点で世界に約4千万人いると、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が11月に発表した。
新型コロナウイルス禍で、乳幼児向け集団接種が中止されたことなどから、接種が滞ったとみられる。
WHOのテドロス事務局長は「新型コロナのワクチンは驚異的な速さで開発と接種が進んだ。しかしその裏で、子どもたちが予防可能な病気の危険にさらされている」と述べ、はしかへの感染予防が不十分な子どもの重症化や死亡の増加を懸念した。
はしかとは、麻疹(ましん)ウイルスの感染によっておこる伝染病。発熱や咳、鼻水といった風邪に似た症状と、発疹が出る。重症化すると、肺炎や脳炎といった重い合併症を発症することもある。
はしかの最大の特徴は、伝染力が非常に強いこと。インフルエンザの10倍の感染力と言われ、免疫を持っていない人が感染するとほぼ100%発症する。
ワクチン接種が普及する1963年以前は、2~3年に一度大流行し、毎年(推定)260万人が死亡していたが、現在はワクチンを2回打てば、ほぼ完全に予防できる。
しかし、ワクチン普及後も国によっては未接種者が多い地域があり、新型コロナの流行前の2019年におけるはしかの死亡者数は20万人。死亡者の大半は、合併症にかかりやすい5歳未満の子どもだった。
新型コロナウイルス感染拡大後の2021年は、はしかによる死亡者数が12万8千人に減少。しかし、22か国で大規模な感染拡大があったことから、新型コロナの影響で検査や報告が出来なかったためとみられる。
同年のはしかのワクチン接種率は、1回目が81%、2回目が71%と、2008年以来の最低水準となった。
これは、新型コロナウイルスの世界的流行による医療システムの崩壊や、定期的な集団接種の中止で接種が滞った影響とみられる。
前述したとおり、はしかは感染力が非常に強いため、世界の一部地域でアウトブレイク(大規模発生)したら、国境を越えてあっという間に世界中に感染が広がる。
アウトブレイクにならないよう「集団免疫※」を獲得するには、1回目と2回目の接種率を95%以上にする必要がある。
※集団免疫
感染者が出ても、感染症が流行しないぐらい、一定割合以上の人口が免疫を持つこと。間接的に免疫を持たない人も感染から守られる。
集団免疫の獲得のためには、各国が協力して未接種者の多い地域の特定とその原因を突き止め、ワクチン接種を強く推進する必要がある。
日本国内のはしかの患者数は、2020年のコロナの大流行以来、年間10人を下回っているものの、最近は入国や渡航が再開し、人の往来が増えつつあるため、はしかに感染する危険性は高まっている。
新型コロナの感染予防対策で世界中に浸透したマスク、手洗い、ソーシャルディスタンスは、はしかの蔓延予防に役立つ。
子どもたちを守るため、こうした個々の感染対策のほか、感染した場合の早期発見、早期治療を行える体制の構築が求められている。
引用文献:
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Nov 23, 2022 “Nearly 40 million children susceptible to measles due to COVID-19 disruptions” UN News
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May, 2022 “Global Measles and Rubella Monthly Update” WHO
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Sep, 2022 “新型コロナウイルス感染症流行下における世界の麻疹発生状況” 国立感染症研究所 IASR Vol. 43 p209-210: 2022年9月号
Vol.57 「ネイチャー今年の10人に、新型コロナ関連2人」
2023年1月13日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集
英科学誌ネイチャーは昨年12月、2022年に科学分野で話題になった10人を選出した。パンデミック3年目とあって、新型コロナウイルスの感染拡大の抑制に貢献した研究者が2人いる。今回は彼らの成果を紹介しよう。
北京大学ゲノミクス※研究者の曹雲龍(ユンロン・カオ)氏は、新型コロナの感染やワクチンによってできた抗体の遺伝子を分析し、次に流行する変異株の特徴を予測することに成功した。
※ゲノミクスとは「遺伝子(Gene)とゲノム(Genome)の研究」のこと。ゲノムとは、「Gene」と全てを意味する「-ome」を合わせた造語。人体の〝設計図〟といえる遺伝子情報全体を表す。
カオ氏は、抗体を産出する免疫細胞の一つ「B細胞」を解析し、これまで流行した変異株やワクチンで作られた抗体の設計図を検証。それらの抗体をすり抜ける〝抜け穴〟を見つけることで、これから発生するであろう変異株の特徴を予測した。
この予測によって、発生前にその株に対応するワクチンや治療薬を開発することができるため、パンデミックを防げると言われている。
もう一人は、新型コロナの後遺症を研究するグループ「Patient-Led Research Collaborative」の設立者リサ・マコーケル(Lisa McCorkell)氏。
新型コロナをはじめとする感染症の研究は、死亡や重症化を防ぐ対症療法や感染防止関連は注目度が高く、研究が進みやすい。その反面、回復の判別がしにくく、患者数が限られる後遺症の研究は進みにくい傾向にある。
マコーケル氏は、新型コロナの後遺症に悩む自身の経験をもって後遺症の影響を発信し、関連研究を促進させようと、同じく後遺症に悩む4人の女性と同グループを立ち上げた。
この活動が多くの研究者の目に留まり、パンデミックが収束に向かう中でも順調に会員数を伸長。現在は、影響力の大きい新型コロナ関連のプロジェクトを支援する基金「Balvi」から寄付された480万ドルで、後遺症の研究を促進している。
この取り組みによって、人知れず後遺症に苦しむ人が心身共に救われ、後遺症がハンデにならない社会環境が整備されることが期待されている。
そのほか選出された8人は、▽サル痘の大流行を抑えるための重要な情報を提供したニジェールデルタ大学の感染症専門医Dimie Ogoina(ディミー・オゴイナ)▽NASAの天文学者Jane Rigby (ジェーン・リグビー) ▽国際気候変動開発センター所長Saleemul Huq (サレムル・フク) ▽ウクライナ出身の気候学者Svitlana Krakovska (スビトラーナ・クラコフスカ) ▽カリフォルニア大の人口統計学者Diana Greene Foster (ダイアナ・グリーン・フォスター) ▽国連事務総長António Guterres (アントニオ・グテーレス) ▽メリーランド大医学部の外科医Muhammad Mohiuddin (ムハンマド・モヒウディン) ▽米国科学技術政策局 (OSTP) の政策顧問Alondra Nelson(アロンドラ・ネルソン)。
引用文献:
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Ewen Callaway et al., Dec 14, 2022, “Nature’s 10 Ten people who helped shape science in 2022” Nature
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Dec 15, 2022, “Nature’s 10 Ten people who helped shape science in 2022” Nature Asia