top of page
アンカー 1

Vol.1  「薬の効果もわかる。淋病の即時チェック機器登場」

2023年6月9日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 性行為でウイルスや菌などに感染する「性感染症」が、世界中で急増している。日本では梅毒患者の増加が顕著だが、米国など世界では淋病やクラミジアの感染数の増加が深刻。特に淋菌は変異が速いことから、既存の抗生物質が効かない「スーパー淋病」の急増が懸念されている。
 薬への耐性菌を増やさないためには、感染後、早急に抗生剤で体内の菌を死滅させることだ。米国では5月に、従来の検査より数段早く感染を判定し、抗生剤が効くかどうかも判別できる小型機器が開発された。

 

 淋病は、淋菌の感染によって起こる膣炎感染。子宮頸管(けいかん)や尿の炎症を引き起こし、放置すると骨盤感染症や子宮内膜炎、子宮外妊娠、卵管炎などになり、不妊や死産を招く危険性がある。

 

 2020年の世界保健機関(WHO)の調査によると、淋病はクラミジアに次いで2番目に多い性感染症で、年間8240万人が感染している。

 注意すべきは、感染の原因である淋菌は非常に変異が速く、過去に複数の抗生剤が効かなくなっていることだ。感染者が増えれば、既存の強力な抗生剤が効かない菌が登場し、治療できない病気になる危険性が高まる。

 

 予防以外で、治療可能な感染症にとどめる手段は、早期の的確な治療につきる。感染早期は菌の量が少なく、薬が効きやすいため、感染した菌を的確に殺す抗生剤を投与すれば、変異を防ぐことができる。
 
 しかし、これまでは感染の検査に約1週間かかり、治療開始まで時間を要していた。そのため、結果を待つ間に感染を広げてしまう危険性があるほか、ようやく治療を始めても、投与した抗生剤が感染した菌に効かず、体内で菌が増殖して、強い抗生剤も効かない菌(スーパー淋病)に変異してしまうケースがあった。

 

 そんな中、今年5月、米ジョンズ・ホプキンス大学が、淋病の感染を即時に判定し、最新の強力な抗生物質「シプロフロキサシン」が効くかどうかも、たったの15分で調べられるポータブル機器「プロンプト(PROMPT)」を開発した。

 

 性器などの分泌液と薬剤を混ぜて専用のプレートに1滴乗せ、機器に入れると、機器内でPCR検査と同じ処理が行われ、15分後に専用のスマートフォンアプリに、感染の有無とシプロフロキサシンが効くかどうかの結果が通知される。
 淋病の特定率は97%、シプロフロキサシンの有用性の的中率は100%と、非常に高い。

 

 機器のサイズは縦12.7cm、横8.4 cm、奥行13.4cmと小さく、5ボルトの低い電圧のモバイルバッテリーで動くため、個人病院でも導入しやすい。個人病院で広く使用されれば、多くの人が早期に的確な治療が受けられるようになり、スーパー淋病の増加を防げる。


 プロンプトが国内に導入されるのはまだ先のことだが、日本には郵送の性感染症検査キットがある。誰にも知られず、手軽に安価に検査できるので、こっそりと調べたい人は活用してみてほしい。
 早めの検査が早期の完治、感染の蔓延予防につながる。恥ずかしいからと検査を避けず、ご活用を。


【プロンプトの実物写真】引用文献1から抜粋
 

Vol1挿入図.png

 引用文献:​

  1. ALEXANDER Y. TRICK et al., May, 2021 “A portable magnetofluidic platform for detecting sexually transmitted infections and antimicrobial susceptibility” SCIENCE TRANSLATIONAL MEDICINE Vol 13, Issue 593 DOI: 10.1126/scitranslmed.abf6356

  2.  Lisa Ercolano, May, 2021 “Johns Hopkins develops portable device for rapidly diagnosing STIs” Johns Hopkins University hub.

アンカー 2

Vol.2  「商品化近い!血糖、アルコール、乳酸を連続測定する
パッチ型機器」

2023年7月7日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 腕に貼り付けるだけで、体内の血糖値やアルコール濃度、乳酸値を常時測定できるパッチ型のウェアラブル機器(身に付けられる次世代携帯機器)が、2022年5月に米カリフォルニア大で開発された。
 直径約3cmのパッチ表面にある0.1mm程の極細針(ニードル)から、表皮内の体液を測定し、スマートフォンに結果を送る。2項目以上を同時測定できるウェアラブル機器は初めてで、各値の変化をリアルタイムで追えるため、食事や飲酒、運動の量の目安をつかめる。


 このパッチを肌に貼り付けると、極細針の先端に含まれた酵素と、体液のブドウ糖(グルコース)、アルコール、乳酸が反応して微細な電流が発生する。どの針にどれぐらいの電流が流れたかで、各項目の濃度がわかる。測定データはBluetooth(近距離無線通信)でスマートフォンに送られ、アプリ内に蓄積される。

 ニードル型のウェアラブル機器の特徴は、針の細さが髪の毛の5分の1程度で、注射のような痛みがほぼなく、ワイヤレス通信を使うので身体の動きを制限されることもない。単発の測定と違い、継続的に値を追えるため、値が上昇するタイミングを把握しやすく、上昇する原因も特定しやすい。


 従来のウェアラブル機器にない特徴は、3項目を同時測定できること。持続血糖測定器や呼気のアルコール検知器など、これまでは1項目しか測定できなかった。

 

 例えば、飲酒すると血中のアルコール濃度が高まり、血糖値が下がるため、糖尿病患者は低血糖症になりやすくなる。この機器を使えば、どれぐらいのアルコール濃度でどれほどの血糖値が下がるかがわかるため、飲酒量の目安を知ることができる

 

 また、乳酸値を連続測定できる機器は従来にない。乳酸値の上昇は筋肉疲労を表すことから、スポーツ選手のオーバートレーニングによる故障を防ぐアイテムになる。
 

 急激な運動(無酸素運動)で乳酸が過剰に分泌されると、血液が酸性になって、糖尿病患者は過呼吸や低血圧、脱水、低体温などを引き起こすため、乳酸値を常時測定する機器は医療分野でも求められている。


 この機器をつかった測定結果は、病院で行われている一般的な検査の結果と変わらなかったことから、安心して使用できる。
 ただ、現段階での測定可能時間は5~6時間のため、数日~数週間連続で計測できるよう改良し、測定項目を増やしてから商品化するという。

 

 連続測定が求められる項目といえば、排卵日の1~2日前に急激に増え、すぐに元の量に戻るLHホルモン(黄体形成ホルモン)だ。妊活のタイミング法で活用されているが、尿で単発的に測定する手法しかなく、上昇時を逃してしまう可能性があった。
 不妊治療の件数が増加する昨今、LHホルモンを連続測定できるウェアラブル機器の需要は高いと思われる。検査項目に入るよう期待したい。

Vol2.図1.png

腕に貼り付けるだけで血糖値、アルコール濃度、乳酸値を測定できる機器(写真引用:カリフォルニア大学サンディエゴ校ニュースページ)

電子センサーやバッテリー、Bluetooth機器等を内蔵した部品(左)と、使い捨てのマイクロニードルアレイ(微小針集合体)(右)で構成

(写真引用:1枚目の写真と同じ)

 引用文献:​

  1. Farshad Tehrani et al., May, 2022 “An integrated wearable microneedle array for the continuous monitoring of multiple biomarkers in interstitial fluid” Nature Biomedical Engineering volume 6, pages1214–1224

  2.  Liezel Labios, May 09, 2022 “Multi-Tasking Wearable Continuously Monitors Glucose, Alcohol, and Lactate” UC San Diego News.

アンカー 3

Vol.3  「迅速検査がPCR級に!感度高める補助ツール登場」

2023年8月10日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 新型コロナウイルスの大流行によって市場に広がった迅速検査キットの精度を、PCR検査並みに高めてくれるろ過装置「ビートルズ(BEETLES2)」が、韓国の光云大学(クァンウン大学)によって開発された。鼻腔ぬぐい液や唾液などの検体から、必要なウイルスや抗体だけを濃縮して取り出すろ過装置で、検査の的中率が2倍に高まる。
 感染初期や無症状の状態でも感染を調べられ、インフルエンザの検査にも使えるため、感染症の蔓延防止に一役買うツールと期待されている。


 新型コロナ感染の判別には、PCR検査が主に使われてきた。しかし、検体内のウイルスを専用装置で増殖させて調べる方法のため、結果が出るまで4~6時間かかり、地域によっては検査が追い付かないことがあった。また、費用も高額のため、新型コロナが感染症法上の5類に移行した現在は、検査の無料化が撤廃されている。

 検査の有料化に伴う感染拡大が懸念される中、検体を検査スティックの上に滴下するだけで病原体を検出でき、10~15分程度で感染を判定できる「迅速検査」のニーズが高まっている。しかし、PCR検査より正確性が劣るのが課題だった。

 

 そこで開発されたのが、ろ過装置「ビートルズ(BEETLES2)」。陽極酸化アルミニウム(AAO)膜と赤血球膜で作られたシートで、検体に含まれる余分な成分を除去し、ウイルス自体と、感染によって発生する抗体(免疫グロブリンG=IGg)、死んだ新型コロナウイルスから流れ出たNタンパク質(ヌクレオカプシドタンパク質)だけを濃縮して取りだす。

 

 AAO膜は、20ナノメートル(nm)の穴が空いたハチの巣状で、水分や抗体、タンパク質を除去し、80~220nmあるウイルス粒子だけをひっかけてとどめる。
 抗体やNタンパク質は20nm以下の大きさのため、AAO膜だけでは流出してしまう。そこで、プラスに帯電する成分を吸着する赤血球膜で、プラス帯電の抗体とNタンパク質をとどめる。

 

 ビートルズで濃縮した検体を使ったところ、迅速検査の感度が20倍高まり、感染初期でもウイルスや抗体を検出することができた。

感染初期の42検体(Ct値※22~26が7検体、26~30が15検体、30以上が20検体)を測定したところ、ビートルズを使わなかった場合は陽性的中率が14・29%、使用した場合は88・1%だった。

 

 ※PCR検査で行われる遺伝子の増幅回数。薬液と温度調整でウイルスの遺伝子を増幅させる作業を何度繰り返したかを表す。Ct値が高いとウイルス量は少なく、感染力が低く、Ct値が低いとウイルス量が多く、感染力も高い。


 検査の感度が高まると、対象以外のウイルスも感知してしまい偽陽性が出る可能性が高まるが、ビートルズを通した20回の検査では、偽陽性が1度も出なかった。

 

 抽出にかかる時間はたった3分。開発中のため価格は未定だが、1,000円~2,000円程度の迅速検査キットとの併用を前提とすれば、高額にはならないと予想する。
 PCRと同じ精度で、市販の検査キットとの組み合わせができる点から、世界保健機構(WHO)が掲げるPOCT(簡易迅速検査)のあるべき姿(使いやすい、迅速、低コスト、高精度、一般消費者向け等)に合致する。

 

 気軽に購入しやすい迅速検査キットの精度の向上は、感染拡大を抑止し、医療ひっ迫や経済活動の停滞を防ぐ。ビートルズはインフルエンザウイルスも検出できるため、迅速検査の活用が一層増えそうだ。
 

image64.png

(図)ろ過装置「ビートルズ(BEETLES2)」引用文献1から引用

 引用文献:​

  1.  Seong Jun Park et al., May, 2023 “PCR-like performance of rapid test with permselective tunable nanotrap” Nature Communications volume 14, Article number: 1520

アンカー 4

Vol.4  「お祭りの発光スティックの原理でウイルスを光らせて
検出。早期発見へ」

2023年9月15日 最終更新 セルスペクト(株)科学調査班編集

 新型コロナウイルス感染拡大によって、自分で簡単に感染しているかを調べられる迅速検査キット※図1の活用が大きく広がった。手のひらサイズの検査スティックの上に、唾液などの検体を滴下し、10~15分程度待てば結果が出るというスピードと手軽さが利点で、安価なため、新型コロナ以外のインフルエンザ向けなどの製品の利用も広がっている。

 

 迅速検査キットの唯一の難点は、感染初期の正確性。鼻腔ぬぐい液などの検体のウイルスを増殖させてから調べるPCR検査と違って、迅速検査キットは検体をそのまま使うため、ウイルスが少ない感染初期はウイルスを見つけづらい。

 

 発見しにくい原因は、ウイルスに吸着する「抗体」を用いた判別方法にもある。
 抗体とは、体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体に吸着し、攻撃するタンパク質。迅速検査の検査スティックには、人工的に製造した抗体が内蔵されており、検体を入れた時に、ウイルスに吸着した抗体があるかどうかで感染を判別する。

 

 抗体は目視できないため、赤色の金ナノ粒子で色付けして認識できるようにしているが、金ナノ粒子は、直径が数十ナノメートルと非常に小さく、ある程度数が集まらないと肉眼で見えない。そのため、ウイルスの量が少ない感染初期は見つけるのが難しい。


 そこで米国ヒューストン大学が6月、お祭りでよく売られているペンライト「ケミカルライト」の原理を使い、ウイルスに吸着した抗体を光らせて検出する方法「Glow(発光)-LFA」を発表した。
 ケミカルライト※図2とは、スティックを軽く折り曲げると、内部のガラス筒が割れ、仕切られていた2種類の化合物が混ざり、それを燃料に「蛍光粒子」が発光する。

 

 同大はこの蛍光粒子を、金ナノ粒子の代わりに使用。抗体に蛍光粒子をくっつけて検査スティックに内蔵した。鼻腔ぬぐい液などの検体を滴下した後、ケミカルライトと同様の化合物を押し出し、ウイルスと結合した抗体(=蛍光粒子)を光らせる。※図3
 肉眼では見えにくいため、混合液を流した後のスティックを、光を遮った暗所に置き、スマートフォンで撮影した写真から、蛍光粒子を見つける。

 

 結果、金ナノ粒子よりもウイルスを見つける感度が10倍になり、わずかなウイルスでも発見できるようになった。

 

 これまでは、感染の症状が出て早めに受診しても、感染初期だと判定ができず、治療を受けられないケースが少なくなかった。感染症で悪化しやすいのは、抵抗力が弱い子どもや高齢者。この機器があれば、早期治療が可能になり、重症化で苦しむ子どもたちを減らせる。製品化に期待したい。
医療機器・ヘルスケア産業では、この難点を改善する製品の開発が活発化している。

 

図1(日本経済新聞2020年12月9日掲載「セルスペクト、コロナとインフルの抗原検査キット開発」より引用)

図1.png
図2.png

図3(引用文献から引用)

図3.png

 引用文献:​

  1.  Kristen Brosamer et al., 23 June, 2023 “Glowstick-inspired smartphone-readable reporters for sensitive, multiplexed lateral flow immunoassays” Communications Engineering volume 2, Article number: 31

<免責事項>
本情報は、当社の販売商品やサービスとは一切関係ありません。また、記載内容はあくまでも編集者の主観に基づいたものであり、その正確さを保証するものではありません。
より、詳しくは、上記の引用文献にある公的報告書、査読付き論文を参照してください。本記載内容を転載することは自由ですが、これにより発生したいかなる事象についても弊社では一切責任を負いません。

bottom of page