新型コロナウイルス感染細胞は、
触手を伸ばして感染を広げる
2020年9月11日最終更新 Cellspect Co., Ltd
COVID-19の大流行の原因となったコロナウイルスの一種SARS-CoV-2は、世界中でこれまでに2,700万人以上が感染し、90万人以上が死亡している。 [1] コロナウイルスが体内で、どう広がっていくのかを解明し、標的とする適切な薬剤を見つけるために、世界中の研究者が前例のない取り組みを行っている。
科学者たちは、この新型コロナウイルスが、これまで考えられていた以上に邪悪で恐ろしいものである可能性があることを発見した。このウイルスは感染した細胞の特定のタンパク質を変化させ、まるでホラー映画の1ワンシーンのように、細胞に感染性の触手を成長させることができる。[2]
Nature 誌に4月に発表されたサルの細胞を用いた研究において、新型コロナウイルスと相互作用することがわかっているヒトタンパク質332種のうち49種が、uウイルスに感染したサルの細胞では、通常とは異なる形でリン酸化していることがわかった。[3] 言い換えると、新型コロナウイルスは、細胞に感染後、49のキナーゼ(リン酸化酵素)をハイジャックする。キナーゼは、タンパク質合成、細胞分裂、シグナル伝達、細胞増殖、発生および老化を含む多くの細胞プロセスにおいて、極めて重要な役割をもつ。この新型コロナウイルスがハイジャックするキナーゼにはCK 2を含んでおり、糸状仮足(filopodia)と呼ばれる毛髪のような触手を発生させる。この触手は内部にウイルス粒子をもっている。
ほかにも触手 (糸状仮足) を利用するウイルスがあり、天然痘ウイルスもその1つであると著者は指摘する。しかし、SARS-CoV-2の触手形成は異常に早い。またこの触手は、ほかのウイルスには見られない木のような枝を持つ、ユニークな形をしている。
さらに最近、同研究チームは、ウイルスタンパク質を含む触手様突起糸状仮足が細胞内で成長していることを示す、感染細胞の高解像度画像を発表した。この触手は近くの細胞に穴を開け、ウイルスが新しい細胞に感染できるようにする。[4]
研究者らは次に、米国食品医薬品局 (FDA) 承認済もしくは現在臨床試験中の薬剤のうち、ヒトおよびサルの両細胞において、SARS-CoV-2によりハイジャックされる前述のキナーゼまたはそのパスウェイの一部を標的とする可能性のある、87種類の薬剤を同定した。キナーゼは「非常に薬剤ターゲットとして期待値が大きい」と著者は述べた。研究者らは、これらの化合物のうち7つ、主に抗癌および抗炎症化合物が、ヒト肺細胞およびサル腎細胞の両方においてウイルスの複製および増殖を阻害することを見出した。この研究結果は6月28日付のCell誌に掲載された。
ニューヨーク大学で生物学と神経科学を教えるキャロル・ショシュケス・ライス教授は、「この研究は慎重に完全を期して行われたが、限界がある」と、指摘する。研究者らは、ヒトの初期気道細胞ではなく、ヒト以外の細胞を用いて、ウイルスがどのように細胞に感染するかをテストした、と同氏は述べた。また、著者らはこの研究の限界を認識していると付け加えた。彼らはまた、トランスジェニックマウスやハムスターなど、SARS-CoV-2感染症の研究に使用された主要な動物モデルのいずれにおいても、彼らのアイデアが有効であることを実証しなかった。「適切にテストすれば、確かに可能性はある。しかし、これらのパスウェイは生命活動に必須であり、それらを標的とする承認された薬剤もあるが、副作用や標的外の影響の可能性が高いことも認識しなければならない」と、彼女は述べた。 [2]
引用文献:
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World Health Organization: WHO https://www.who.int/
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Yasemin Saplakoglu. July 10, 2020. “Coronavirus hijacks cells, forces them to grow tentacles, then invades others” Live Science news.
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David E. Gordon et al., Arp 30, 2020 “A SARS-CoV-2 protein interaction map reveals targets for drug repurposing” Nature. 583, pages459–468
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Mehdi Bouhaddou et al. June 28, 2020 “The Global Phosphorylation Landscape of SARS-CoV-2 Infection” Cell. 182, ISSUE 3, P685-712.E19